四百年の誓い
***


 連休半ばの夜。


 吉野圭介は缶ビール片手に、福山城そばの公園で桜を眺めながら、芝生に座っていた。


 かつて薄墨(うすずみ)」の老木があった辺り。


 薄墨は倒壊し、その根本から福山冬悟(ふくやま ふゆさと)の白骨が発見された。


 薄墨はいわば冬悟の墓碑。


 福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)による無言の追悼。


 死へと自ら突き進んでいったのは冬悟であるとはいえ、元はといえば冬雅が月光姫に横恋慕したのが原因。


 自分が引き起こした事態の大きさに、冬雅は打ちのめされた。


 せめて安らかに眠れるようにと、徳を積んだ僧を京より招いて供養をし、亡骸のそばには名木の流れを汲む桜の苗木を植えた。


 その苗木は、冬悟の命を吸い取るかのように成長し、やがて巨木となりその花びらの色から「薄墨」と名付けられた。


 「……」


 圭介はかつて薄墨が生えていた辺りを見つめた。


 老木が倒れた後、新たな苗木が植えられたのだが、まだ樹齢二十年程度。


 わずかにひ弱な花を咲かせているのみ。


 再び薄墨のような見事な木を眺めることは、二度とないだろう。
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