Office Love
粗方の説明を終えると、

「なぁ、彩葉ちゃん、さっきの子、彩葉ちゃんの後輩?」
「そうですけど。何か?」
「可愛えぇ子やな。」
「今は、平川さんの下に就いてますよ。私が市埼さんに借り出されましたから。」


フフフと笑えば、「意地悪やなぁ。」と、肩をコツンと叩かれた。
この仕草が女の子達を虜にしてるんだろうななんて考えながら。

「ええの?彩葉ちゃん。あないな可愛えぇ子が真子に就いてて。」
「いいも何も、仕事ですから。」
「他にもおるやん、女の子やのうても。」
「彼女、ああ見えて、よく出来るんです。平川さんには出来る子を就けないと彼に着いていけません。」


***


美咲ちゃんって名乗った子は、彩葉ちゃんや、ウチの胡蝶ちゃんと違うて、ふんわりしたと言うか柔らかいと言うか。
真っ白いにゃんこみたいな印象やってん。
頼りなさ気で包んでしまいたくなるような。
何やろ、この気持ち。ようわからんけど、美咲ちゃんに靡いてる自分がおることにびっくりや。
僕、自分からあんまり女の子口説かへんねん。
口説かんでも向こうから寄って来るから。
寄って来る中の子で気に入った子に手付けるだけ。
そやけど、この子はなんかちゃうみたいやな。


フロアに戻ったら真子の隣にちょこんと座って、パソコンの画面と睨めっこしてる。
美咲ちゃんは、よう出来る子や言うてたけど、今の彼女にそないな欠片は微塵も見えへん。


「美咲ちゃん」


最上級の甘ったるい声で、彼女の名前を呼んだる。


・・・・・・・・・・


えっ?聞こえへんかったん?僕、今、君の名前呼んだで。
もう一回呼んでみる?


「美咲ちゃん」


・・・・・・・・・・


心折れそ。
僕、市埼ギンやで。知ってる?
社内イチ女誑し言われてる、市埼ギンやで。
その僕が誰にも使こうた事ない様な最上級の声で君の名前呼んだんやで。


横で真子が笑いを噛み殺しとる。
あー腹立つ。


真子に肩をポンと叩かれ、美咲ちゃんから遠ざけられる。


「あの子な、仕事し出したら周り見えへんねん。俺が呼んでも返事せーへんし。」


ちょっと変わった子やろ?って、俺、美咲ちゃんの事お前よりよう知ってますオーラ全開で話して来る真子に全力で腹が立った。
真子の肩を思いっきりグッと掴んで、美咲ちゃんの元へ戻る。
「痛ったいなぁ!!!」と言う真子の声は無視して。

「美咲ちゃんっ」

そない言いながら、美咲#ちゃんの肩を叩きながら声を掛けた。
顔を斜め45度に傾け、パソコンを眺め過ぎた瞳は涙で潤んでた。


「あ、市埼さん。」
「さっきから何回か呼んだんやけど。聞こえへんかった?」
「すみません。私、没頭すると何も聞こえなくて。何かご用でしたか?」


いやいやいや、君を落とそう思って最上級の声使って囁いただけやのに、用事はないわ。
それを2回も失敗した挙句、用事があるか聞かれたら。
絶句。まさしくそれ。

「ん、なやろ、用件忘れてもうたわ。ほな、またな。」

そない言うて立ち去るしかできんやん。
後ろでククククと笑っとる真子の声が聞こえる。

あーなんや、僕をあないに翻弄する子初めてや。
僕に一向に靡こうとせーへんかった子もおるけど、ほんまの拒絶であって、彼女のそれとは全く違う。
計算された翻弄やったら、僕もまだ乗ったろか?思うけど、あれはちゃうわ。
あれこそ【天然】ってヤツちゃうか?



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