Office Love
こんな気持ちになったのも初めて。女に体よく断れても、違うヤツがいると次から次へと女を変えてったが、今回ばっかりはその事が俺に大きく圧し掛かった。
【女をとっかえひっかえしてるアナタを軽蔑します。】
そう言われたみたいで、落ち込んでる俺がいる。



遠ざかるお前の背中に声すら掛けることが出来なかった。
いつもの俺ならそんな事、気にも掛けねぇのに。
貴井だからなのか?鉄の女にそう言われたからか?
いや、言われたわけでもねぇ。
勝手に俺が思い込んでるだけだ。



そんな憂鬱な気持ちで翌日、出勤した。



今回は二課三課の合同でのコンペ。
一課との勝負は二課三課で競う。
昨日、貴井に最終チェックを頼んだ資料も貴井だから頼んだってわけでもなかった。
手近にいた貴井を捕まえて資料を作っておく様に頼んだだけだった。


自席を引き、乱暴に腰を掛ける。
と、二課の方に視線を移せば、二課の女誑しと異名の高い同期の市埼ギン(いちざきぎん)と親し気に話していた。
その姿が俺をイラつかせる。
俺の貴井ではないのに、他の男と話してるだけで、俺の嫉妬心がドス黒く渦巻く。
ガタッと大きな音を立てて椅子を引き、貴井とギンに近づく。


「よぉ、ギン。」
「なんや、修兵。何か用事あるん?」
「お前じゃねぇよ。貴井、ちょっといいか?」
「ほな、初めっから、胡蝶ちゃんに声掛けたらええやん。」


胡蝶ちゃん・・・・・まぁ、お前は二課イチ、いや社内イチ、日本イチ、世界イチ女誑しだと言われる男だから、そう呼んでてもおかしかねぇな。


「貴井、昨日言ってたコンペの資料・・・・」

そこまで言うと、スッとその場を離れて自席に資料を取りに戻った。

「修兵、胡蝶ちゃんに気あんの?」

お前のそのゆる~い京訛り、イラッとすんだよ。
真子の関西弁とはまた何かが違う。


「何だよ、それ?俺は今度のコンペの資料を頼んだだけで。」
「嘘。それだけ違うんちゃうの?修兵、あの子に気あるわ。僕の勘。」
「ほんとにマジ何それ?」

ツカツカツカと貴井が戻って来て、資料を手渡す。
その一連の動作にまで見惚れてしまう。
昨日とは打って変わって、貴井の姿は黒のスーツに髪も後ろ手で纏め上げられている。
昨日の妖艶さは全くないにも関わらず、俺の気は貴井に惹かれたまま。


「貴井、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」


あっちへと促せば、


「ここで結構です。」


どうぞ、と言わんばかりに動かない。
ギンの顔を見ればニヤニヤと口角の端を上げていやがる。


「あ、もしかして、僕、お邪魔?」


クククと喉を鳴らす。


持ってた資料を口実に貴井を会議室へ促す。


「この資料のチェックするから、第一会議室へ来い。」


ギンを一瞥し、上司命令で貴井に言い放ち、彼女の返事も聞かず、会議室へと向かう。
背中で、「悪戯したらあかんで。」と言うギンの声は無視して。




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