Office Love
「えっ・・・、どちらにいかれるんですか?」
「昼飯、まだだろ?一緒に食おうぜ。」


さっきも、おんなじ台詞吐いてたななんて思いながら、それは忘却の彼方へ追いやって、貴井を見つめる。
鉄の女が揺れてる。
社内1,2を争う女誑しに昼を誘われてる事に動揺してるのか?
男に飯に誘われてる事に動揺してるのか?


「佐々木さんと食事だなんて、周りの女子社員に嫉まれます。」


えっ?体よく断られてるのか?俺。
俺が動揺を隠し切れない。
断られるだなんて微塵も思ってなかった。
七瀬ん時は真子に懐いてたし、断られても仕方ないかと思ってはいたが、貴井に断られるとは想定外だ。


「何で?俺と飯、行きたくね?」


貴井の瞳をしっかり捕らえて、強気な言葉で誘う。
そうは思っても、
断るな、断るな。
一日に二度も振られるだなんて、俺、カッコ悪くね?


「はい、行きたくありません。他の女子社員から睨まれるのは嫌ですから。」
「それは貴井の本心?」


結構、俺、高確率で女落とせんだけど、何だ?今日は2連敗ってか?
正直、貴井を今まで女として見た事なかったかも知れねぇ。
この今日の貴井の姿が、いつもと全く違って、それで俺の中の好奇心が動き出しただけかも知れねぇ。
けど、手に入れてぇって思った事は俺の本心。


「私の本心?ですか。それは、本当は佐々木さんとお食事に行きたいけど、他の女子社員に睨まれるのが嫌で断ってると仰りたいんですか?」


【凄い自惚れですね。】


と、鈍器で頭を殴られた様な一言が返って来た。
けど、貴井が言ったそのまんまだった。
俺と食事に行きたいが、他の女子社員の手前行きたくないと言ってると。


「失礼します。お言葉に甘えて、コンペの資料は明日最終チェックさせて頂きます。」


そうお辞儀して俺の前から去ろうとする貴井の、その細い腕を咄嗟に掴んでた。

「一緒に昼飯食おうぜ。」

こんなにも必死に女に取り繕ったことが今までない。
どんなに思い起こしても今まで一度もなかった。
なのに、コイツは俺のそんな歴史をいとも簡単に塗り替えちまう。


「では、どうして私なんですか?」


キッとキツイ視線を寄こして、それでいてしっかり視線は外されることなく聞いて来る。


「今から携帯を開けば、いくらでも駆け付ける女の人はその中にたくさんいらっしゃるでしょう。」


嫌味とも皮肉とも取れる御託を並べて、貴井は腕を振り払った。
そのまま外へと続く、エントランスへと背を向けて何事もなかったように歩いてくお前に俺は何も言えなかった。
お前の言う通り、電話一本でホイホイ付いて来る女は何人もいる。
その事をお前に見透かされ、指摘され、俺の気持ちは全く宙を浮いた状態になっちまった。


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