不器用な愛を刻む







「っ、何言ってるの椿ちゃん…!?」

「…もう前から決めてたんです。
善様が…倒れた時からずっと。」








彼がこうして寝たきりになってから

ずっと自分を責め続け
彼のもとを離れる決意をしていたという

椿の言葉に





喜一は1人
動揺し、混乱していた。








「っ、そんなこと…
善がきっと許すわけない!」

「それでも、もう決めたんです。」








いつの間にか涙を拭って



どこか愛おしそうに

だけど どこか切なそうに
彼を眺める椿の視線に





喜一は
それ以上、何も言えなくなってしまった。








(──彼を愛しているから、離れるのか。)









愛す人の

重荷にはなりたくない──。






そう思う椿の心が

何となく喜一にもわかったような気がして
これ以上止めることをやめた。

















「……じゃあさ、椿ちゃん。」

「…はい。」










そう彼女の意思を理解した上で

喜一は椿の名前を呼んで
小さく微笑んだ。



























「……結婚しよう、僕と。」




















そう言った喜一の声に

椿は思わず目を見開く。






そんな彼女の反応も
想定の内である喜一は


優しく微笑んだまま

言葉を続けた。










「彼のもとを出て行くっていうなら
僕が君の身を引き取るよ。

ただ…
僕のいる場所は男ばかりだから

僕の妻として…君を迎え入れる。」









何かあっては困るからね、と

言葉を続ける喜一に



椿は目を見開いたまま
固まっていた。








……自分が、喜一と結婚?








表上では
そういう設定にしておく必要があると言う

彼からの条件。





ただの契約というだけなのだが





椿はその契約に踏み出ることに
躊躇していた。







そんな彼女の反応も

喜一にはわかりきっていることだった。









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