不器用な愛を刻む

『孤独から救ってくれたのは』










───綺麗な大きい屋敷の、書斎。







質の良い畳には
赤黒い液体が染み込み、シミができていた。





そこに横たわる




上等な着物を着た、若い男女。










「………。」










そしてそれを見下ろす





1人の少年。










まだ12歳にもならないであろう
幼い彼の手には





その2人を殺めたであろう




1本の──長刀(なぎなた)。
























彼の親は



ろくに家にも帰ってこない両親だった。








彼のことは屋敷に置いて


部下や世話係に
全てを任せ、会話すらあまりしなかった。








それでもごくたまに


自分の方へ顔を向けてくれる時がある。










ただ






そんな時にその口から出るのは

自身の息子であるはずの自分への






『罵声』-----。












"醜い生き物"






"あなたなんていらなかったのに"













そう言う

愛を与えてくれない親が





───もはや彼の普通だった。










(………。)












少年は目の前で倒れている

両親の死体を見下ろしながら






冷めた視線を

ただ送るだけだった。
















───これが彼の




初めての人殺しだった。










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