きみに触れられない

透明、笑顔と理由



「おーい、奏人」

「おう」

クラスの男子から呼ばれて振り返る。

「なあ、今日の部活コーチの新メニューがあるらしいぞ」

「それもめっちゃ大変なんだろ?」

げっそりした表情で話すやつらに「今からなんて顔をしてるんだよ」と笑った。

練習がきついのは嫌だが、強くなれるならそれでいいとも思うんだけどな。

…ミサからも、がんばれって言われたし。

この前のミサの表情を思いだす。


入院している先輩に会った翌日。

心が弱くなっていたのを、ミサにバレてしまった。

正直、ミサにバレたくなかった。

もし、俺が相当悩んでしまったことをあいつが知ったら、あいつはきっと俺以上に悩むだろう。

悩んで、なんとかして俺に元気を与えようって必死に考えて。


あいつは誰よりもやさしいやつだから。


自分が言った一言が、相手にどう伝わるか。

その効果を、リスクを、ずっとひたすら考えて、結局言えなくなる。


結局言えないから、相手にはあいつがどれだけ悩んでいるかどうかさえ伝わらなくて、愛想のないやつだと思われてしまう。

そんな損をするやつだから。


だからあいつがあの時あんなことを言ったことが、すごく驚きだった。


『カナ、部活頑張ってよ』


__あいつ、相当頑張って言ったんだろうな。
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