きみに触れられない
そっと廊下の影からミサを見守る。

ミサは迷うことなく、階段を駆け上がると扉を押し開けた。

ギイイ、と金属がこすれる嫌な音が廊下に響く。

扉が開かれた瞬間、溢れた光の中に見えたミサの笑顔。

見たことのない楽しそうな、頬を少し染めたその表情にくぎ付けになった。


あたしは足音を立てないようにして階段を上った。

暗い、埃っぽい階段の頂上に、屋上へ続く扉がある。

音を立てないようにゆっくりと扉を押し開けた。


眩しい光の中、そっとミサを探した。

キョロキョロと辺りを見渡すとミサの姿はすぐに見つかった。


ミサは一人きりでその場にいた。

座ってお弁当を広げながらぼうっと外の様子を見ていた。

その横顔は楽しそうで、何かを待っているような顔だった。


ミサは屋上に行きたかっただけ?


そんなことを思っていると、ミサは不意に振り返った。

あたしの姿が見えるわけじゃないと思いつつも咄嗟に身を隠す。

目だけはミサから離さずに、じっと様子を見守っていた。


ミサは嬉しそうな顔をして誰かの名前を呼んだ。

それから嬉しそうに、楽しそうに、話し出したのだ。


あたしは目を疑った。


あんなに嬉しそうな顔をするけれど。

あんなに楽しそうな顔をするけれど。


ミサの近くには誰もいない。


誰も、いなかった。
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