理想は、朝起きたら隣に。


その瞬間、緊張からドキドキしていた私の心臓は凍りついた。


彼だ。
慶斗だ。
さっき話したばかりの別れた彼が、目の前にいる。
スーツ姿なんて見たことがなかったせいか、なんだかあの頃より大人っぽい。
少し色素の薄い髪に、すらりとした手足。高級スーツを誰よりも着こなしてる。

切れ長の目に、綺麗な鼻梁。

忘れるわけがない。彼だ。

私はストールを無意識に頭に被ると、壁に顔を向けて隠れてしまった。
逆にこっちの方が不審過ぎて人目を引いてしまうかもしれない。
どうしよう。
どうして今日なんだろう。


どうして今日再会しなければいけなかったんだろう。

今、この状況でどんな顔をしていいのか分からない。


「じゃあ来月からは日本支社?」

「まあね」

「結婚式には間に合わなかったのは残念だな。あいつお前にスピーチ頼みたかったらしいぜ」

「だからだよ」

スーツの上を脱ぎながら、一番遠いソファに彼は座った。

私も落ちつかないと。

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