紳士的な狼の求愛
すっかり忘れてました


〈 有馬 悠斗 〉

名刺の字面を見たとき、何だろう、何か引っかかった。




「うちのマーケのエース連れてきました!」

営業の原田君が言うと、有馬さんは、
「取引先の前で恥ずかしいからやめろ」
と苦笑しながら原田君を小突いた。

有馬さんは、私と同じ30歳くらいだろうか。
明るい感じがする、なかなかのイケメンだ。
パリっと細身のスーツを着こなして。
クレリックシャツに、細めのネクタイ。
ピカピカの靴。
手にはいい生地のトレンチコート。

ふぅん。確かに仕事できそうな雰囲気。


私、青山玲子は首都圏にあるドラッグストア本部でバイヤーをしている。
担当部門は日配品と酒。

今日は大手ベンダー(いわゆる卸問屋)マーケティング部門のアナリストから、市場動向や施策提案などのプレゼンを受けることになっていた。

有馬さんのプレゼンはさすがエースなだけあって、上手かった。
わかりやすく、バックに豊富な知識があるのがわかる。
正面からの質問でも、斜めからの質問でも、なんなく返してくる。
頭いいんだ。


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