Tender Liar

私は、テーブルに置いてあったコーヒーを一口啜り、カップをソーサーに戻した。

さっきから、その動作を何度も繰り返している。

そのため、カップの中のコーヒーも、もう残りわずかだった。

コーヒーは、すっかり冷めてしまっている。

でも、他に何もする事がなかった。

仕方なく、またコーヒーを口に含む。


思い返してみると、彼にはたくさんの事を教わった。

それは例えば、人を愛する、ということ。

そして、人を憎む、ということ。

彼は、私の全てだった。

彼が、私の青春そのものだった。

私の全てを、彼に捧げてきた。

きっと、あの頃の私には、彼しか見えていなかったと思う。
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