Tender Liar
「俺と、別れてくれへんか?」
最後に彼は、私にそう訊ねた。
私はもう、頷くしかなかった。
理由もわからないまま、ただ別れようとしか言わない彼に対して、ただ、頷くことしかできなかった。
――俺は、いつでも、ここにおるから。
あの言葉は、一体何だったの?
私を振り向かせるための、嘘?
それとも、甘い罠?
いずれにせよ、私はそれに騙され、裏切られたのだ。
それでも彼を憎めないのは、私がまだ、彼を好きだから。
心のどこかで、あの言葉は、あの時の彼の本心だったと信じているから。
人には誰でも、限界というものがある。
好きという気持ちを抑え続けることに限界があるように、好きだと想い続けることにもまた、限界があるのだろう。
そこに彼が、私より先に到達してしまった。
ただ、それだけのことなのだろうと思う。
「ごめんな、ユズ。今まで、ほんまにありがとう」
そう言うと彼は、私にそっと唇を重ねた。
分かってる。
これは、別れのキス。
これで本当に終わりだという、けじめをつけるためだけのもの。
そこには、愛なんてあっちゃいけない。
分かってる。
でも、聞いて。
私は本当に、あなたが好きだった。