ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
のらりくらりとはぐらかすような物言いだから、すぐに本題に切り込んだ。そうしたら少しの沈黙の後、彼が話し始める。
『……社長が、どういう風にあなたに伝えたかはわかりませんが』
「……えぇ」
あ、終わりだ。と声のトーンでわかった。
『僕が、社長の娘に手を出すなんて……。本当に、そんなリスクを自分からわざわざ買ってでるとでも思っていたんですか?』
「……」
『……思っていたんでしょうね』
子どもに呆れるような口ぶり。
伏し目で嘆いている顔が想像できてしまう声。
右手で自分の耳にスマホを押し付けたまま、左手で拳を握ってきゅっと力を込める。悔しい。
……悔しい。
ただでさえ不安定だった五年間は、彼に手を離されればジェンガみたいに簡単にバラバラと崩れた。
「新田さん」
『はい』
「私たぶん、思ってなかったですよ。あなたが私に本気なんて」
『……』
「まさか父が絡んでたとは思ってなかったですけど。……でも今、私、そういうことかってちょっと納得しちゃってます。やっぱり好かれてなかったかぁって」
「それが一番寂しい」