花京院家の愛玩人形

「フハハハハハ!
そうとも!無色無臭の殺人ガスだ!
紫乃には無害だが、貴様にとっては致命的だろう!?
初めは頭痛程度だっただろうが、今となっては腕を上げることすらままならないはずだ!」


うん。
もはや悪役でしかない。

高らかに勝利宣言した信太郎は、ドカドカと足音を立てながら部屋に入ってきた。

そしてベッドに歩み寄り、要のシャツの襟首を掴んで紫乃から引き剥がそうと…


「汚い手で紫乃に触るな、この泥棒め」


「およしになって!」


したが、できなかった。

要に抱かれていた紫乃が自らその腕を抜け出し、信太郎の手に華奢な両手を重ねて止めたから。


「放しなさい、紫乃」


「いいえ!放しません!
お願い、信太郎さん!もうおよしになって!」


「放せ!!」


「あっ!?」


パァン!と、乾いた音。
短くか細い悲鳴。
カメオバレッタが落ち、フワリと広がる髪。

振り下ろされた信太郎の手に頬を打たれた紫乃が、為すすべなくベッドに倒れ伏す。


「おい!?アンタ」


「貴様は黙ってろ!!」


非難の声を上げた要も信太郎の手でベッドから引き落とされ、為すすべなく床に転がる。

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