花盗人も罪になる
改札口を通り抜け、円の乗る電車のホームへと向かった。

送っていくとは言ったものの、よく考えたら円の家を知らないことに逸樹は気付いた。

「ところで……北見さんの家はどこですか?」

よく聞いてみると円の家は逸樹の家とは真逆の方向で、結構な距離がある。

ただでさえいつもより遅くまで残業した後なのに、更に円を送ってから帰宅となると、家に着くのはかなり遅い時間になるだろう。

帰りが遅いと紫恵が心配するので連絡しておかなければ。

逸樹はホームに着くと、スーツのポケットからスマホを取り出そうとした。

しかしすぐに電車が入ってきてドアが開き、車内に乗り込むと円が話し掛けてきて、メールをするタイミングを逃してしまった。

20分ほど電車に揺られ、円の家の最寄り駅で降りた。

急行や特急が停車しない駅だからなのか、金曜の夜なのに駅前は人通りがあまりなく、なんとなく寂しい場所だった。

「北見さんの家は駅から歩いてどれくらいですか?」

「15分くらいです」

確かに女性が一人でこんなひっそりした夜道を15分も歩くのは危ないかもしれない。

「バスはないんですか?」

「うちから停留所が遠い上にバスの本数が少なくて不便なんです。だから歩いた方が早いかなって」

「そうですか……。じゃあ行きましょう」

ここまで来てしまったからには家に送り届けるしかなさそうだ。

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