花盗人も罪になる
付き合うも何も、奥さんがいる人とそれは有り得ない。

第一、平気で不倫をするような人とは付き合えないと香織は思う。

「思わないよ。もし自分が奥さんの立場だったら、やっぱりイヤだもん」

香織が白身魚のムニエルを切り分けながらそう言うと、円は軽く鼻で笑った。

「それはそれでしょ? 自分が結婚した時は相手によそ見なんかさせなければいいじゃない」


円は自分が美人だということをじゅうぶんすぎるくらい自覚している上に、プライドが高い。

自信家で情熱家で恋愛に積極的な円のことだ。

自分が迫っておちない男なんていないとでも思っているのだろう。

そんな円に対して、気が小さくて少々人見知りな香織は、自分に自信がある円を羨ましいとは思うが、その自信が知らないうちに誰かを傷つけなければいいけど…と思う。

「一応言っとくけどさ……不倫なんてやめときなよ」

「なんで?」

円が“なんで?”と尋ねたことに、香織は驚いた。

人としての常識というか、道徳的な物事の善し悪しもわからないような子供でもあるまいし。

なぜ人の物を盗んではいけないのかと言っているようなものだ。


< 2 / 181 >

この作品をシェア

pagetop