花盗人も罪になる
それぞれの水曜日



水曜日。

香織はオフィスでパソコンに向かいながら、ふと顔をあげた。

その視線の先にはからっぽの逸樹の席。

逸樹は今週金曜まで大阪へ出張だそうで、日曜日以来顔を合わせていない。

少し残念なような、ホッとしたような、妙な気持ちだ。

そして相変わらず大輔からの連絡もないし、こちらから連絡してもなんの返事もない。

このまま終わってしまうのかもしれないという不安が日毎に大きくなる。

それなのに逸樹のことが気になるなんてどうかしてると思いながら、香織はまたパソコン画面に視線を戻した。

「あー、やる気でないわ」

隣の席で円が心底つまらなさそうに呟いた。

「ねぇ香織、今日仕事終わったらごはん行かない?」

「いいけど……定時で?」

「当たり前でしょ。残業なんかしても意味ないもん」

そういえば円は先週まであれだけ毎日残業していたのに、今週はまだ残業している姿を見ていない。

円が残業していたのには何かわけがあったのだろうかと、香織は怪訝な顔をした。

「はー、つまんない。早く来週にならないかなー」

「来週になれば楽しいことでもあるの?」

「会いたい人に会えないとつまらないでしょ。来週になれば会えるもんね」

「ふーん、そういうこと……」

今週大阪へ出張に行っているのは各課の主任たちだ。

円の狙っている人もその中にいるのだろう。

そういえば、円が誰を狙っているのかハッキリとは聞いていない。

香織は今夜食事をしながらそれとなく聞いてみようと思った。



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