そして浅き夢を見る
古都にて
桜が枚散る夜の公園で、二年付き合っていた彼に別れを告げられた。

元からいつ別れてもおかしくない相手ではあったのだ。

でも、こうしてみるとなんとも悲しい話では無いか!?

「ああもううるさいな。わかったわかった!とにかくさ、旅行行こ!」

なん十回と繰り返された私の失恋話に飽き飽きした彼女が叫ぶ。

「だってさ、あんなにあっさり別れると思わないじゃん!」

オイオイ泣く私を軽蔑しきった目で見つめる。

「だからさ、傷心旅行行こ。ほら見て岐阜とか京都とかいくない?」

言うが早いかどこからともなく旅行雑誌を出してきた。

要は失恋にかこつけて旅行に行きたいだけだ。

しかもなぜ古都ばかり!?

「え、だって失恋といえば京都じゃん?お寺見て、歴史に触れて、自分のちっぽけさに気づくのさ」

「そういうお前は何様じゃ。」

私をよそに彼女は勝手に仕切り勝手に決めてきた。

そして桜が散りきった頃私たちは京都を訪れた。

古都じゃ京都じゃと盛上る彼女をよそに私はイマイチ楽しめない。

どこに行っても何を見ていてもボンヤリとしていて今しがた何をしたかさえ覚えてない。

「もーあんたね、あんな男のことなんてさっさと忘れなよ!まだ二十歳だよ!新しい恋しないと!」

彼女はそう言うがそう簡単に割りきれたら失恋ソングなんて出来ねえんだよ。

「呑んで食えばいつか忘れるって!」

ワタシの背をバンバン叩きながら麦酒を煽る彼女は多分自分が呑みたいだけだ。

沈む私は引きずられるように御所に連れていかれる。

いちおう慰めてるつもりらしい。

「平安時代はさ、不倫なんて言葉無くて、気に入ったら奥さんになれたのにね。」

池を見ながら彼女がポツリと言う。

その言葉に私は初めて顔を上げた。
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