憑代の柩
 要は笑い、彼女に言う。

「あづさじゃないよ。
 これが噂のあづさの身代わりだ」

 家政婦はまだこちらを窺うようにしながら、ぺこりと頭を下げた。

 歳のいった家政婦で、しかも、この屋敷に雇われているのだから、すべてに行き届いている女だと思われるのに、その視線は客に対して随分不躾なように思えた。

「あの、初めまして」

 そう話しかけた瞬間、彼女は何故か涙を浮かべた。

「福田さんは、あづさと仲良かったから」
と要は言ったが、少し違和感を覚える。

 大学でのあづさの姿をした自分に対しての級友の態度からして、あづさはあまりフレンドリーな感じの女ではないと知れた。

 あまり訪れなかったという御剣家の家政婦と親しいというのは、奇妙な感じがしたのだ。

 そのことについて、要に訊く。

 普段なら空気を読んで黙っておくようなことも、あづさに関しては訊いておかねば、何が事件に繋がっているかわからない。

 ましてや、自分は今、あづさなのだ。

 何処に命を落とす種が転がっているとも限らないからだ。
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