憑代の柩
 私はノブを握ったまま、
「……私が十八日以降、居ないって言ったんですか?」
と訊くと、

「ええっ。
 そこでしらばっくれる?」
と男は大仰に驚いてみせる。

「確か、十八って言いましたよ。

 親父の給料日の二日前だなって思ったから、はっきり覚えてますよ」

 来年のとか言わないでしょうね、と男は言う。

 私は、とりあえず、この場をまとめようと、

「私、双子の妹なんです」
と言ってみた。

「また適当なことを。
 っていうか、双子でも住んでるんなら、払ってください」

 しまった。そう来たか~。

 そう思っていると、要が後ろから現れ、

「君、この部屋の住人はもうすぐ結婚して出て行くんだ。

 私たちは片付けと留守番のために此処に居るんだ」
と言いながら、懐から長財布を取り出し、

「だが、まあ、一ヶ月分だけ払っておこう」
と言う。

「ああ、ご結婚だったんですか」
と素直に受け取りかけたが、

「あ、今日、書類持ってないんで、やっぱいいです」

 そう律儀なことを言った。
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