憑代の柩
「お帰りなさい、流行さん」

 そう笑いかけた。

 お帰り、か。

 仲間の居るところなら、それは何処でも帰る場所になるだろう。

 だが、『咲田馨』の帰る場所はもうない。

「とりあえず、借りの名前でも、決めようかと思うんですけど」

「花屋の店員のでいいんじゃないですか?」

 狭苦しい後部座席で、息を切らして言う流行を二人で振り返り、睨んだ。

「お前が一番情緒がないな」

 車はあの川原を通った。

 かつて、生徒だった衛と自分はそこで並んで、川を見ていた。

 自分は唐突に空を指差し、衛に何か言った。

 衛が顔をしかめて見せる。

 私は笑っていた。

 やがて、衛も笑う。

 少し、気恥ずかしそうに。

 平和な夢だ。

 あのとき自分が衛に何を言ったのか。

 もう思い出せない遠い夢――。

 温かい夕暮れの日差しの中、せめてもう少し、その夢の名残りを味わうように、目を閉じた。


                           了
 
 
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