Hell・God
ノ「っく…!はぁっ、はぁっ…」


息が出来ない。

苦しくて、涙がこぼれそうになる。

それを必死に堪えるのが、また辛い。


阿「オマエが佐藤ノアか?」


ノ「あなたは…?」ゲホッ


阿「オイラは阿修羅。閻魔のとこ連れてってやるよ」


ノ「じゃあ…阿修羅さん、ここは、地獄…?」


阿「天空界。まぁ、死後の世界だな。地獄じゃねぇよ」


ノ「そう…ですか…っ」ゲホッ


阿「…苦しそうだな、お前あっちの世界でまだ生きてるんじゃねぇの?」


ノ「へ?なんでですか?」


阿「まだ死にきれてない。だから今、苦しいんだよ。トラックにはねられたってのに、ずいぶんしぶといな」ハハッ


ノ「…私、これからどうなるんだろ…」


阿「地獄に行くか、天国に行くかだな。でも――」


阿「…お前、なんでその名前つけられたんだ?」


ノ「え…そんなの知りませんよ」


阿「…ノアの方舟。知ってるか?」


ノ「ノアの…方舟?」


阿「…まぁいい。行くぞ」



阿「父ちゃん、連れてきた」


閻「ご苦労。それでは佐藤ノア」


閻「まだ生きたいか?」


ノ「…っ、生きるのに、疲れました。」ゴホ


閻「…ならば死ぬか?」


ノ「…死にたくない」


死にたくない。生きたくもない。こんな矛盾が、頭を巡る。

閻魔様はこっちを見て、苦笑いした。


閻「…はっ、これだから人間は優柔不断で困る。生きるか死ぬか、どっちか決めろ」


ノ「…死に…たいです…私を、殺してください…!」


阿修羅さんはまだあっちの世界で生きていると言っていた。死ねば楽になるのではないか。

息が出来ない。苦しい。


この苦しみは、まだ生きているからか。


苦しみに耐えるのなら、もう、死んでしまいたい。


閻「よく聞こえない!はっきりと言え!!」


ノ「死にたいです!!!私を、私を殺してください!!」


ごめんなさい、お祖父さま、お祖母さま…

私、今日、死にます。



閻「…よく言えた。阿修羅」


阿「はぁ?オイラが殺るの?」


阿修羅さんは嫌そうな顔をした。


阿「ごめんな、恨まないでくれよ?」



ドスッ。



ノ「あ…」



阿修羅さんの手が、私の肌を貫き、心臓に到達した。


心臓が潰される感覚がある。


耐えられる痛みじゃない。


先ほどの苦しみより、更に苦しい。


痛くて涙が出る。


ノ「痛……っ!!!」


思わず声が出る。…最後に聞こえた、茜ちゃんの声に似た、叫び。


阿「ごめん、もう少しだ!」


ノ「あ、あああぁぁ…!」


尋常じゃない痛み。死ぬのがこんなに辛いとは――


ドクン。


心臓が、止まった。


阿「はい、終わり。ごめんな、よく耐えた」ヨシヨシ


ノ「はぁっ、はぁっ…終わり、です、か…?」


阿「あぁ。どうだ?苦しくないか?」


ノ「…はい。まだ痛みは残ってますけど…」


阿「じゃ、とりあえずお前は天国行きだな!」


閻「待て、阿修羅」


阿「?」


閻「神になれ、ノア。」


ノ「えっ、神…?」


閻「お前は神に選ばれし人間…神になれ、これは命令だ」


ノ「神…」



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