俺様上司と身代わり恋愛!?


『俺が今、口出ししたのは上司としてじゃなかった。だから謝ったんだ』

あれは、いったいどういう意味だったんだろう。

課長に言われてから三日間、そればかりが頭のなかをぐるぐるしていた。
そのせいで、伸介のことなんてすっかり頭から抜け落ちていて……思い出したのは、会社帰りに待ち伏せしている姿を見てからだった。

会社を出てすぐの場所で待っていた伸介が、私を見るなり笑顔を浮かべ近づいてくる。

この前も思ったけれど、こんな場所じゃ、社内の誰が見ていてもおかしくないのに……と眉を寄せた。

「よう。飯行こうかと思って」

相変わらず軽い調子で誘われて「行かない」と即答する。
十七時を過ぎた、暗い空の下、伸介が笑ったまま言う。

「いや、話もあるんだって。しかも割と真剣な話。だから……飯はどうでもさ、ちょっとでいいから話せない? 用事があるって言うなら、ここでもいいから」

笑顔を崩し言われ、答えに迷う。
こんな風に、お願いするみたいに言われたことなんて今までなかったから。

いつも命令するみたいな態度しかとられていなかったことを思うと、すぐに断りの言葉がでてこなかった。

「話だけなら聞くけど……ここじゃ目立ちすぎるから」

社員が出てきたらすぐに視界に入るこんなところで、立ち話しているわけにはいかない。
また、二股だなんだって噂されたら堪ったもんじゃない。

そう思い言うと、伸介は「じゃあ駐車場は?」と聞いた。

ご飯を一緒に食べるつもりはないから、お店には入らない。
外で、人目につかないような近場……と考えると、他に思いつかなかったから、まぁいいかとうなづいた。

社員用の駐車場なら、このあいだ高橋さんと話していたときも課長以外来なかった。
少し話すくらいなら、見られたりはしないだろうし。


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