俺様上司と身代わり恋愛!?
忘れてなかったことにしたほうが、私的にもいいのかもしれない。
もともと、ただの上司と部下だ。
こんなことをわざわざ言ったら、課長との関係も悪くなってしまうかもしれない。
だったら、私が我慢してそれですむならそうしたほうがいい。
得意分野だ。
私は、そうやって生きてきたって言っても過言ではないくらい。
なのに……止められなかった。
「嫌です」
ハッキリと言うと、課長はようやく私のほうを向く。
驚いた眼差しを向ける課長を、真っ直ぐに見つめ返した。
「嫌です。絶対忘れません」
「嫌って……」と、理解できなそうに眉を寄せた課長が言う。
「おまえは、流されただけだろ。俺がそういう流れにしたから、得意の流され癖が発揮されただけだ。
今、忘れたくないと思ってても、そんなのは関係を持って時間が経たないからで、そのうち忘れる」
相変わらず感情の見えない声で言う課長を、じっと見つめた。
「得意の流され癖が発揮されたかとか、そのうち忘れるとか……それは、私の感情です。私が感じて決めることを、なんで課長が先に決めつけるんですか」
そんなのはおかしいとばかりに眉を吊り上げると、課長が困ったような顔をするから、続けた。
「私、流されたりしてません。課長だからしたんです」
言い切ると、課長の瞳に驚きが広がる。
その様子を見ると、私が流されて行為に及んだだけだって、本気で思っていたようで……それに腹が立った。
「課長の言うように、私は流されやすいし、危なっかしいかもしれません。きっと、詐欺師に会ったら100%騙されますし、壺だって羽毛布団だって買っちゃいます。けど……自分の気持ちくらい、分かってます」
自分の気持ちを、こんな風に真っ直ぐに伝えることは今までになかった。
今野さんに仕事のことで言ったときも緊張したけれど……それとは比べられないほどの緊張に襲われ、重圧に押しつぶされそうになるのを、ぐっと堪える。