俺様上司と身代わり恋愛!?
「桐崎課長……」
遠目から見た時点で〝あれ、なんか桐崎課長に似てるなー〟くらいには思っていた。
背格好とか、髪型とか、後ろ姿から漂う雰囲気だとかが。
でも、私の思い違いだろう。後ろ姿が似てる人なんてたくさんいるし。
だから、知らない人だ。
そう決めつけて、ホテル内にあるカフェの一席に座っているその人に近づいたけど……。
近づけば近づくほど、やっぱり似ていて。
そして、恐る恐る向かいの椅子を引いた私を見上げたその人は……予想通り、正真正銘の桐崎課長だった。
驚いた顔で見上げた課長は、「茅野?」と不可解そうに眉をしかめていたけれど、私も多分同じ顔をしていたと思う。
いや、相手の名前が〝桐崎〟だってことは聞いていた。
でも、まさか私のよく知る桐崎課長だとは……思ってもいなかったし、顔を合わせた今でも信じがたい。
漫画みたいに自分のほっぺをつねりたくなったのなんて初めてだ。
「あの、早乙女美絵のお見合い相手って……桐崎課長だったんですか?」
名字が合致している以上、半分……いや、八割方、恐らくそういう事なんだろうと思いながらも一応聞いてみる。
課長はまた少し顔をしかめてから「ああ、そうだけど……」と歯切れ悪く答える。
「なんでそれを茅野が知ってるんだよ」
「それは、ええと……」
答えに困ったのには理由がある。
課長が言っている通り、私は確かに茅野だ。茅野ゆず。
短大を卒業して金融会社に勤めて今年で三年目の、二十三歳。
部署は預金課で、桐崎課長の直属の部下だ。