俺様上司と身代わり恋愛!?
茶色に染めた髪は、肩の上の長さでふわふわと揺れている。
細い髪は元からの癖で、ところどころウエーブを描いてしまう、いわゆる猫っ毛だ。
それをどうこういじるのも面倒だからと、ぼさぼさに見えない程度に野放しにする事を覚えて早五年。
ふんわりとした髪型は、私の雰囲気に合っているらしく、友達や同僚にも好印象だし、美容院にはカットしにいけばいいだけだしで、一石二鳥だ。
〝ふわゆる〟なんて髪型が流行って、日本中で一番喜んでるのは私だと思う。
……が、何度も言うように、ここにいるのは茅野ゆずだ。
どうひっくり返っても、桐崎課長がお見合い相手として待ち合わせしている早乙女美絵じゃない。
「ええっと、ですね……」
「なんだよ、はっきり言え」
あやふやどころか、さっきから『ええと』しか言えないせいで、課長に不機嫌そうに聞かれるも。
その細められた瞳の恐怖に負けを認め、〝じ、実はこういうわけなんですぅ!〟とすぐさま白状するのは、本当の美絵に対して気が引けてしまう。
だって私は今日、友達である早乙女美絵として……もっと言えば、美絵の替え玉としてここに来たのだから。
本当の美絵に『お願い! 何でもするから!』と頼まれて、もう既に先払いとして報酬のグロスをもらっている。
発売と共に爆発的人気になりどこに行っても手に入らないって噂のグロスを、美絵のお父さん経由で。