俺様上司と身代わり恋愛!?


「今野さん、会社の通帳の残高を、電話口の一般社員に教えたらダメだよ。
かけてきた人にちゃんと代わってもらわないと」

「すみません……。席外してて代わりに聞くって言うので、いいものだとてっきり……」
「うん。誰に言っても差し障りないことならいいんだけど、残高とか振込確認とか、そういう金額にかかわることは、基本一般社員には伝えないものなの。
あー……でも、そっか。私もわざわざ言ってなかったから……ごめん。言っておくべきだったね」

眉を寄せ目を伏せた恩田さんが、覇気のない声で言う。

「すみません……」
「サンウェルさん、結構うるさい人だから……今度からは特に気を付けてね」

恩田さんから出た〝サンウェルさん〟の名前に、ああ……と、キンキン声が脳裏に蘇る。

サンウェルさんの会計担当大澤さんは、その日の機嫌に大きく左右された態度をとる。

機嫌がいい日なんてそんなになく、何がそんなに気に入らないんだって聞きたくなるほどにいつも機嫌が悪くイライラしている。
そしてそれを電話越しに八つ当たりしてくるのはもう、週に数度はある案件だった。

そんな理由から、サンウェルさんからの電話はいつも以上に気を付けないとというのは、もう預金課で暗黙の了解となっている。

私が入社してきた時には、〝サンウェルさんには気を付けて〟と言われたから、もう随分前から言い伝えられてるのだろう。

今年ももれなく、私は高橋さんに伝えたし、恩田さんも恐らく今野さんに伝えてはいたと思うのだけど……。

残高確認なんて一日に何本もかかってくるし電話内容では一番多いと言えるから、慣れだとかそういったモノからくる油断もあったのかもしれない。

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