追いかけっこが、終わるまで。
1. 出会い
ハァ、ハァ。

駅から5分程走って、小さな洋風居酒屋の前にたどり着き、とりあえず息を整える。

1時間遅れ。今から顔を出しても遅いかもしれないけれど、今日の合コンは絶対来るように美和に念押しされている。会社同期の美和は、私が新しい恋をできるように応援してくれているから。

乱れた髪も整えて、店内に足を踏み入れる。

一目で見渡せる店内はこぎれいで、壁に小さな絵や写真がたくさん飾ってある。なかなか好きな感じのお店だな。

きょろきょろ首を振って見回すと、左手奥のボックス席の男の人と目が合って。



一瞬、ここがどこなのか忘れた。

長谷川先輩?




その瞬間に、先輩の右隣に座っていた美和から私に声がかかる。

「リサ―。お疲れ~!」

「意外と早かったね?木島さんから逃げられたの?」

振り向いた優奈にも声をかけられて現実に引き戻された。



とりあえず席に向かう。

一番手前の席、長谷川先輩らしき人の向かいが空いていた。

「酒グセ悪めのお客様でね、逃してもらった感じなの。 あの、遅れてすみません!梅沢リサです。」

優奈に答えながら慌てて名乗ってみても、目の前の先輩は私が誰か気づく様子はない。



そりゃそうだ。

高校で2年上だった先輩は、同じ部活でも女子部とはほとんど話さない人だった。

私のことは、覚えていないというかきっと元々知らないのだろう。



「お疲れ様、リサちゃん。俺、美和の高校からの友達で原田速人。こいつが佐々木で、こっちが光輝。会社の同期ね」

「こんばんは、リサちゃん」

一番奥に座った速人くんがずいぶんざっくりと紹介してくれて、光輝(こうき)と呼ばれた長谷川先輩もにこっと笑って名前を呼んでくれた。

光り輝くというその名前を、本人は嫌ってると聞いたことがある。

初対面の人への愛想のよい笑顔。女慣れしてそうな雰囲気だな。


こんな人だったかなぁ。

記憶の中の長谷川先輩は、背筋が伸びた袴姿がきれいで、弓をひく姿が誰よりもかっこよくて。男子部の仲間たちと戯れているかと思えば、機嫌の悪さを隠すことなく一人でふてくされている日もあり。

かっこいいのに子供みたいで目が離せないと、弓道部内外にファンがたくさんいる人だった。



向かいに座ったスーツの人は、切れ長の目と笑顔は確かに長谷川先輩なのだけれど、笑い方の質が違う気がする。

柔らかく微笑める大人の男の人だ。

当たり前かな。もう、7年経ったんだよね。

私が23なら、先輩は25才になってる。大人で当然なんだ。
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