未熟女でも大人になっていいですか?
そのオドオドと震えた眼差しを私に向けながら近づき、深々と頭を項垂れた。


「本当に申し訳ございません!」


男らしいのは認めよう。

素直なところも好感が持てる。

でも、それを差し引いても許せない!


「このコートは私が自分の初任給で初めて買ったものなの!だから、何とかしてこのペンキを落としてよ!」


「そう言われましても、僕にはどうやったらいいか……そのペンキは油性ですし、落とすとなると強い薬剤を使用しなくてはいけなくなる。そうすると服の生地が傷んで、尚のこと着れなくなります」


「そんなことあんたに言われなくても知ってる!でも、私はこれが気に入って買ったの!だから、何とかして!」


20歳過ぎた女が幼な子みたいに駄々こねるのもタブーな気はする。

でも、ホントに悲しくて悔しい!


「本当にすみません。謝ることくらいしか僕には方法が見つからない」


頭を更に下げて謝り続ける左官工の男。

その旋毛を見つめ返して、向かっ腹立ったから言い返した。


「それじゃあ、せめて新しいコートを買い直して!このコートと同じくらい上等な物を!」


「そう言われましても、今は持ち合わせがありません」


狼狽えながらも拒否はしない。


「誰も今直ぐ買ってとは言ってないでしょう!でも、なるべく早くして!」


根っからの強気な性格を発揮してしまった。

鼻っ柱の強い私を見つめ、左官工は肩を落とす。


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