未熟女でも大人になっていいですか?
適当に答えておく。

それで父の機嫌が良ければそれでいい。


「そうか良かった。あっ、仕事の帰りに餡蜜を買ってきたぞ。食べるか?」


「餡蜜!?食べる食べる!」


二つ返事で玄関を駆け上がり、コートを脱いで思い出した。


「あ……そうか、これもう着れないんだ……」


ガッカリしながらペンキの染み込んだ部分を見つめる。

肩口以外にも袖や背中の方にまで数滴付着してる。



「悔しい。大のお気に入りだったのに」


ブツブツ文句を言う私を父が振り返って見る。


「何か言ったかね?」


「ううん!何も。着替えたらすぐに行く。居間でいいよね?」


「いいよ。慌てずにおいで」


父は嬉しそうな顔をして逃げる。


その背中が鬱陶しいと思うことが少なからずある。

でも、この狭い鳥籠を逃げ出すだけの勇気はまだない。



「ハラ立つからさっさと着替えてしまおう」


バサッと藤色のコートをハンガーに引っ掛けた。

明日からはまた、隣に掛かったグレーのコートを着なければならない。

季節はやっと花の時期を迎え、新緑が伸び始めようとしてるのに。


「本当に悔しい!あの左官工め、買い直すまで絶対に許さないんだから!」


バンビな左官工の彼と恋に落ちる前の一瞬の出来事。


それを運命と語るには、まだ早過ぎる春のことーーーー。



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