未熟女でも大人になっていいですか?
朗らかな母と私を笑わせるのが得意だった父が並んでいる。

二人の間に生まれた私は、どんな時も笑っていないといけないのか。



(笑えなくても…笑顔でいないと駄目…?)


高島の方へ向き直った。

真面目くさった顔をしている彼は、私が笑うのを待っている。



ーー初めて会った日、彼のお腹の音を聞いて笑った。

力の出ない表情とは反対に腹ペコアオムシの声は大きく響いた。


母が亡くなってからずっと、笑うにも笑えない頃だった。

笑ってしまうと、母に申し訳ない気がしていたーーーー




……あの時と違って、今は可笑しくも何ともない。


いくら両親が喜ぶと言われても、急には楽しい気分になれない。


けれど、笑わなければシャッターはいつまでも切られない。


このままだと、教え子達にも迷惑をかけてしまう。


それだけはしたくない。


それだけは許し難い。


ロボットだろうが何だろうが、私はやはり教師なのだから………




(……そうよね、自ら望んで教師になったんだ……)



そう思うと少しだけ迷いが吹っ切れた。

高島はほっとした表情を見せ、レンズをこっちに向けた。



「いいぞ。そのままの顔でいろ」


どんな表情をしていたかは知らない。

でも、少なくとも仏頂面ではなかった筈だ。







「ありがとうございました!」


シャッター音が聞こえ、琴吹君が嬉しそうに駆け寄りカメラを覗き込む。

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