イジワル上司に焦らされてます
会社を出て不破さんの車に乗せてもらって走り出してから、数十分。
つまるところ、その間、不破さんは私の服や髪に煙草の臭いが付くと、私が嫌がるだろうと思って今の今まで吸わなかったということだ。
不破さんなりに、私に気を遣って我慢してくれていたってことだろう。
それなのに、呑気に「煙草吸わないの?」なんて、失礼にもほどがある。
「す、すみません、私の方こそ気が利かなくて……。臭いが付くとか気にしなくて良いので、不破さんが吸いたかったら吸ってください。私は全然、大丈夫なので!」
そう言って顔の前で両手のひらを開けば、視界の端で歩行者専用信号が危険を知らせるように点滅を始めた。
深夜の信号待ち、交差点で停まっているのは私たちを乗せた車だけ。
「俺が、嫌なんだよ」
「え?」
「お前に煙草の臭いが付くのは、俺が嫌だってこと」