イジワル上司に焦らされてます
  



「わざわざ、お時間を取らせてしまって、すみませんでした」

「いえ、僕の方こそ思いがけず日下部さんと外出できたのでラッキーでした」



assortのオフィスがあるビルの前で、そう言って爽やかに笑う辰野さんを、複雑な気持ちで見つめた。

カフェを出てからすぐに解散とはならず、仕事の話と世間話をしながら、辰野さんはビル前まで送り届けてくれたのだ。

本当に、掴みどころがなくて……それでいて時々、思いもよらない言動と表情を見せる彼のペースに、段々と乗せられてしまっている気がする。

最後に言われた、" 公私混同 " の件も気になるけれど……なんとなく深く追求することができなかったのは、彼が私にその隙を与えてくれなかったから。



「それでは、また後日。新しいネームとロゴ案が固まったらご連絡ください」

「はい、本当にありがとうございました。次こそは、間違いなく最高のものをお届けできるように頑張ります」



そこまで言うと、一度だけ辰野さんに頭を下げて踵を返した。

─── と、振り向き様に、急ぎ足で通りすがったサラリーマンと肩がぶつかって、思わずグラリと視界が揺れる。



「……っ、」

「あ、……っぶな。大丈夫ですか?」



咄嗟に身構えてみたけれど、間一髪、大きな腕が身体を支えてくれて倒れずに済んだ。

品の良いスーツの胸に手を当て顔を上げれば焦ったような面持ちで私を見る辰野さんがいて、思わず顔が熱を持つ。

 
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