イジワル上司に焦らされてます
 



本当に……前々から噂では耳にしていたけど、実際に近くで見ると泣きボクロとかまであって、余計にイケメン度に磨きがかかるとは恐ろしいヒトだ。



「ビル内でお買い物をされたお客様が、気軽に立ち寄って休めるように、カウンター席はもちろん、ゆっくりと寛げるソファー席もご用意する予定です」



言いながら、企画書のページを捲る辰野さんの指先を視線で追い掛けた。


それにしても……カジタ側の担当が辰野さんとは予想外だった。


私が打ち合わせのためのアポイントを取るより先に辰野さんから連絡が来た時は、一瞬なんのことかわからなかったし。


担当者が辰野さん。これを幸運と取るべきか、それとも大きな重圧と取るべきか。


……いや、多分、どちらかといえば後者で間違いないだろう。


チラリ、企画書に視線を落としたままの辰野さんを盗み見る。


私は今回の話を聞いた時に、カフェはビル内の一部のテナント的なものに過ぎないと思っていたけれど……きっと、そうじゃない。



「ちなみにですが、ウチとしては最終的に、カジタビル内のカフェを1号店として、結果次第で2号店以降の店舗を増やしていきたいという考えです」



浅はかな私の想像の、遥か上。

チェーン店展開まで視野に入れていたとは、恐れ入りました。


 
< 35 / 259 >

この作品をシェア

pagetop