短編集「見かけ倒し。」
斎藤「書けそうだよ。」

みよ「原稿を見せて下さい。」

斎藤「なんだと。」

みよ「原稿を。」

斎藤「メモ用紙にでも、するつもりか。」

みよ「内容を確認するんですよ」

斎藤「三言しか書いていないよ。」

みよ「三言?!12人出てくる芝居に三言ってのは、論理学上、おかしくないですか。それにわたしの記憶が正しけりゃ、階下にハンバーガー頼みに行く前も、原稿用紙には三言しか書かれてなかった筈です。」

斎藤「それは違う。二言だ。」

みよ「変わんないよっ」

斎藤「君は、作家が、たった一言に、どれだけの労力を費やすのか、まったく理解してないようだ。」

みよ「あなた、作家じゃなくて、ただの、日雇いの警備員じゃないか。」

斎藤「言ってくれるぜ。」

みよ「自覚して頂こうと思いまして。」

斎藤「君、A型かね。」

みよ「何故です?」

斎藤「A型の女とは相性よくないんだ。」

みよ「わたしはA型ではないですよ。」

斎藤「じゃ、何型」

みよ「B型。」

斎藤「B型。うそ。B型とはうまくいくはずなんだ。」

みよ「血液型なんて、あてになりませんよ。」

斎藤「干支は何年?」 

みよ「ひつじです。」 

斎藤「それだ。」

みよ「それだってなんだよ。」

斎藤「そっちで引っ掛かっちゃったか。」

みよ「いい加減なことを。」

斎藤「ひつじがB型を凌駕しちまったんだ。それに僕はジンギスカンをそんなに好まない。」

みよ「知りませんよ。」

斎藤「北海道に、もうかれこれ6年ばかり居るがね、どうもやはり、こちらの水とは合わないようだ。」

みよ「何の告白ですか。知りませんよ。」

斎藤「12人ものをどう作るかって話ですよ。」

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