エリート上司と偽りの恋
恋も仕事も平凡がいい?

六階建てのビルの前で立ち止まり、手で日差しを隠しながら見上げる。


もういるのかな……。いったいどんな顔して挨拶すればいいんだよ。

どうか、まだ出勤してませんように。っていうか一日外出してますように。

そう願いながら中へ入ろうとしたとき、うしろから肩を叩かれた。

まさか……。


「おはよー」

その顔を見て、肩の力がいっきに抜けた。

「亜子さ~ん」

「なになに?朝から酷い顔してんねー」

黒のパンツに白いサマーニットを着ている亜子さんは、二児に母とは思えないほど若々しく元気だ。それに比べて私は……。

「亜子さん、今度話聞いてください……」

「いいけど、そんな沈んでたらかわいい顔が台無しだよ」

手をヒラヒラさせながら一階の管理部に入っていった亜子さん。

亜子さんまでそんなこと言わないでよ。余計ヘコむし……。



「おはようございます」

意を決して営業部に入ると、主任の姿はまだなかった。

ホワイトボードの【篠宮:直行直帰】の文字を見つけて、ようやく緊張から解放された私。


「加藤、この前大丈夫だったか?」

「新海君おはよ。大丈夫、全然大丈夫だよ」

「ふーん、ならいいけど。ていうか……」

「ん?」

「いや、いいや。そろそろ冬のキャンペーンの準備始まるし、頑張ろうな」

「うん、そうだね」

キャンペーンっていっても、私のやることは決められた資料を作って言われた通りの準備をするだけだ。


「おはようございまーす。今日主任会社に戻ってこないんですかね?寂しいなー」

「桐原さんおはよ」

戻ってこられたら私が困るよ。

でも今日は回避したとはいえ、いずれは顔を合わせなきゃいけないんだよね。

どうしよう……考えといてって言われても、なにをどう考えればいいのか分かんないよ……。



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