エリート上司と偽りの恋
次の休日、俺はあの喫茶店の前に立っていた。時刻は十七時。

女の人のことで、ここまで自分から行動に移したことは今まで一度もなかった。


俺はどうしてそんなに彼女のことが気になるのか、好きなのか?だけど、彼女のことはなにひとつ知らない。

二度電車で会っただけだ。

一目惚れなんてしたことはないし、そんなものするはずがないと思っていた。



レトロな雰囲気の喫茶店に入ると、わりと広い店内にはカウンター席と四人掛けテーブルが左右の壁に沿って四つずつある。

空いていた左側の一番奥のテーブルに座ると、母親くらいの年齢の女性店員が注文を取りに来たのでコーヒーを頼んだ。


店内にはサラリーマンらしき人やひとりで座っている女性、俺の隣には大学生くらいの男三人がいて、カウンター以外は満席だった。


しかしそこに彼女の姿はない。

あたり前だ、俺はなにを期待していたんだろう……。


コーヒーをひと口飲むと、自然と深いため息が漏れる。

この気持ちがなんなのか正直分からないが、もう一度会いたいと思っていることは確かだ。

そのもう一度があれば、このモヤモヤした気持ちの正体が分かるんじゃないかと思っている。

だけどそんな偶然、三度もあるわけがない。


そう思っていると、隣のグループの会話が耳に入ってきた。


『今日はバイトじゃないのかな』

『おまえマスターに聞いてみろよ』

『んなこと聞けるかよ』

『でもほんとかわいいよな』


バイト……かわいい……?


その言葉を聞いたとき、俺は心の中で自分に言い聞かせた。

ただ聞くだけだ、聞いてスッキリしたいだけなんだからなにも恥ずかしいことなんかない。



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