エリート上司と偽りの恋
コーヒーを飲み終えた俺は、会計に向かった。

お金を払いお釣りを受け取ると、意を決して店員に問い掛けた。


「アルバイトの女性は……今日はお休みですか？」

「バイトの子？どの子かしら……」

少し怪しいと思われているのか、店員が疑いの目で俺を見ている気がした。

「黒髪でこのくらいの長さの……」

ジェスチャーを加えてあくまで平然を装って聞くと、店員は「あ～」と納得したような表情を浮かべて言った。


「さっきも違う男の子に聞かれたわよ、彼女人気あったからね。〝かとうゆい〟ちゃんのことでしょ？彼女なら三日前に辞めちゃったのよ」


確信はなかったけど、直感で間違いないと思った。

俺が電車で二度会って、この喫茶店に入っていった彼女の名前は……かとうゆい。


なんていうか、漫画やドラマのような展開にはなかなかならないもんだよな。

名前は知ることができたけど、すでに彼女はアルバイトを辞めていた。これで今度こそ、本当にもう会うことはない。



帰りの電車の中、俺を救ってくれたときの真っ直ぐな瞳と、涙を流していたときの辛そうな彼女の表情が何度も思い浮かんだ。

これはきっと、恋だったんだ。


たった数日だけの恋、そんな清らかで純粋な恋もあったなと、いつか思い出すのかな？


もう二度と会えないと思うけど、もしも三度目があったのなら……。




　◇






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