氷上のプリンセスは

#2 変わる生活





アルが転校してきてから早1ヶ月。



とりあえず"必要以上に学校では関わらない"という約束だけは守ってくれている。



でも逆に言えば学校以外では"必要以上に"関わってきているわけで…



『リリー今日は僕の練習見にこない?』




『ねぇ、買い物付き合ってよ!』




『熱でたから看病しに来てぇ』




などと毎日毎日毎日毎日毎日それはもうスマホを開くのが!!学校に行くのが!!嫌になるほど!!関わってくる。



買い物付き合ってよ、というのは用事があるからと断り、

熱出た、というのはうちの母親に連絡をして彼の家に行ってもらうことで対処したのだけれど、問題が一番最初の

"練習見に来て"

ってやつ。


最初は適当な理由をつけて断っていたけれど毎日毎日必ず誘ってくるのだ。


昨シーズン、16歳でシニアデビュー。


そしてなんと初出場の世界選手権大会で優勝するという快挙を成し遂げた彼にはリンクに立たない日なんてほぼ皆無。


たとえリンクに立たずとも、筋トレを欠かす日は無いはずだ。


だからこそこちらも毎日毎日見に来いと誘われているわけなのだけれど…



「リリー今日こそ見に来てくれるよね?」


また来た。


ちなみに今いるのは私の自宅マンションの前。


現在彼が拠点に使っているリンクは主に二つあり、その一つが私の使う最寄り駅の一つ先だからということで私の家まで誘いに来るのがもはや日課になりつつある。



「毎日誘ってるのに毎回断るって一体何やってんの?やっぱ男いるんでしょ!」



「あーはいはい。
もーそうゆうことでいいから早く練習に行ったら?パパが時間にうるさいのはよく知ってるはずだけど?」



現在アルのコーチをしているのは実は私のパパだったりもする。


だから私の居場所がバレたと言ってもいいと思う。



「何でもいいけどホントに今日こそは来てよ。コーチ、寂しがってたよ。しばらくリリーの顔見てない、って。」



私が日本に来たのは中学2年のとき。


中学卒業までは両親と兄と暮らしてたんだけど兄が就職するにあたって家を出ることになったのでついでに私も一人暮らしをすることにしたの。


2年経ってるとはいえいろいろあった後だから家族には反対された。

特にパパが。

ママとは少し前に会ったけどパパとはお正月以来だから大体半年くらいかな?会ってないんだよね。


「娘が顔を見せてくれない…って言って泣きそうになってたんだけど?」


げっ…


それはもうめんどくさ過ぎる。


めんどくさいけどこれ以上会わないでいると会ったときに今日会う何十倍も面倒なことになるのが目に見えてる…


「仕方ないから…行く。」


「やった!じゃっ早く行こっ!」



パシッと私の手を掴むと、そのまま走り出しそうな勢いでルンルンと嬉しそうに歩いていくアル。


うん…


私も別に悪気があってしてた訳じゃないけど、



なんか、



1ヶ月もいろいろ断り続けてて申し訳なくなってきた。


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