恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》
「ダメだ。瀬里、家帰ってろ」

私を見下ろした先輩の眼差しが、今までに見たことないほど孤独だった。

何かを成し遂げなきゃならないと決心した瞳。

覚悟と、それに似た悲壮な色が浮かび上がった表情。

その時、いつかの先輩の姿が脳裏によみがえった。

ソファに力なく横たわり、全身に傷を負った先輩。


『反対勢力を抑えるのに手こずったんだ。仲間に気の荒い奴がいてな』


確かあの時、先輩はそう言って荒い息を繰り返して……。

嫌だ。もしもまた先輩が傷ついたら……あの時よりも酷い事が起こったら……!

私は人目も憚らず先輩にしがみついた。

「先輩、何かあったなら言って。そんな顔しないで。先輩に何かあったら私、」

うまく思いを言葉に出来ない上に、言い様のない恐怖で涙が出た。

声が上ずる。

「もしかして、王座に関係が」

「瀬里、泣くな」

「だって、先」

またしても腕を引かれた。

それだけじゃない。

「瀬里……!」

抱き締められた、強く。

身体が仰け反るほど先輩に抱かれて、私は息が止まりそうになった。

「嫌だ先輩、こんなの嫌」
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