永すぎた春に終止符を
幾美さんは快活な人で、しかも仕事のできる先輩だ。いろいろ癖のある人だけど、仕事は文句なく出来る人だ。事務的な作業が早いだけでなく、周りに気配りの出来る人なのだ。

ここに来たばかりの時、たまたま取った電話で困ってたら、幾美さんが、受話器をちょうだいとジェスチャーで示し、代わって電話に出てくれた。その対処が、一分もかからずに終わってしまったから、それ以来、幾美さんを目標にがんばって来た。

『こんなの、知ってたら一分もかからないものなの。仕事ってそういうものよ。毎日ぼおっと過ごしてないで、周りの人がやってることよく見ておきなさい。当面、人に聞かなくて済むようにがんばるのね。私は一年かかったけど』

はい!!と勢いよく答えたけど、三日やってみて一年で人に聞かなくてもいいレベルに達するなんて神業だと思えてきた。
営業部の庶務なんて、どこまで仕事があるのかなんて線引きがわからないし、方法もすべて決まっているわけじゃない。

幾美さんは、梨沙が一人前になる前にも、
大変なミスにつながるような問題を、事前に防いでくれた。

それ以外にも、梨沙より、3年長くここにいるから、幾美さんに聞けばたいがいの事はわかった。

彼女は、梨沙にとってなくてはならない人だ。

ただ、社交的で明るい性格だから、ちょっとした仲間内の打ち明け話も、大袈裟なものになる。
拓海と別れたっていう話も、今日中にはフロア内に知れ渡るだろう。
そうすれば、いちいちいわなくても済む。


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