永すぎた春に終止符を
「からかうって、あのねえ、いい年の男がこんなこと冗談でも言わないよ。少なくとも本気だって受け止められたらまずい相手には」
言いたいこというと、後はもう関係ないって様子で、安田さんは淡々とビールを飲んでいる。
「えっと…あの、なんて答えたら…」
あまりにも変わり身が早くって、どうしたらいいのかわからない。
安田さんが笑いながらいう。
「それ、俺に聞くの?迷ってるなら、いっそのこと俺のいうことに全部、
『はい』って答えてよ」
「全部ですか?」
「そう…全部。俺の言いたいこと分かるだろう?」
「分かりません」
「はっきり言って欲しい?」
「いいえ」
「君がどんな人なのか知りたい。出来れば体の相性も含めて」
「はあ?いきなり何いってるんですか?」
「だって、探り合って、憶測で判断したって、時間の無駄だろう?最初から目標に向かって進んだ方が、効率がいい」
「ずいぶん、割り切ってるんですね」
「君に関しては、そうでもない。こだわってるよ。こんなこと、君にしか打ち明けていない。社内にたくさんいる女性の中で、自分の子供を生んでほしいと思えるのは君だけだ」
「あの…ずいぶんストレートにものをいうんですね」
「でも、俺は…君の元彼みたいに君の事、途中で放り出したりしないよ」
「放り出したわけじゃありません」
どうしてこんなことでムキになるのだろう。
「俺には、どっちでもいいけど…どっちみち別れちゃってるんだろ?
あっ、ごめん…いきなりこんな話すると、怪しまれるなあ…実は…聞いちゃったんだ。君と原田が話してたの」
「給湯室の?」
「そう。それ以外のこともね」
「そうですか…」
知られたからって、もうみんな知ってる事実じゃないのと自分に言い聞かせる。いい加減な気持ちで別れたわけじゃない。
「それで?本当なの?」
「はい?」
しつこく聞かれても答える義務はない。
「わかった。あまり触れたくないよね、その話題。じゃあ…まずは…そこからだね」