永すぎた春に終止符を
五階でエレベータを降り、保田さんは、エレベータに同乗した男性が、部屋に入るのをやり過ごそうと待っていた。
その男性が、私の隣の部屋の前で、

「あれ、鍵どこいったのかな」と全身を手ではたきながら探し始める。
いつまでも、部屋にはいらない。

保田さんは、あきらめて「じゃあ、また」と私に言った。


「おやすみなさいと、顔を上げてみたところで、彼がかがみこんで顔を近づけてきた。
油断してた。避けたけれど、唇の端っこにキスされた。


「さあ、お休み。部屋に入って」


保田さんは、隣のドアで鍵を探してる男から遠ざけるために、早くと急かして私を部屋の中に押し込んだ。

パタンとドアが閉まり、
やがて、彼の足音が遠ざかって行くのが聞こえた。


< 73 / 121 >

この作品をシェア

pagetop