空って、こんなに青かったんだ。
第六章
 その日星也は啓太から「お前も一緒に来いよ」って誘われてたんだけど
「ゴメン、 ちょっと用があって」
と言って断ってしまった。

大事な「新監督」になるかもしれない人の「人物調査」に行くわけだからホントは行かなきゃいけないのはわかってるんだけど。

ここんとこ家に帰るのが面白なくて、そんな気分にもならなかった。
なにがヤダって言葉じゃ言えない、とにかくなんかイヤ、なんだ。

だからなんとなく他人と一緒にいるだけで心穏やかでいられないときがあって、
今日が実はその日。とにかくひとりになりたかった。

親が再婚同士だから弟とは血が繋がっていないのはもう小学校の四年生だったから
わかってたよ。だからべつに今まで気にしたこともなかったしどうということもなかった。

じゃあ、なんで最近、イライラするんだろう。

中二になって「反抗期」に入ってきた「血の通わない息子」にやたらヘリクダル父親の態度を見てるのがその原因なんだろうか?多分、そうなんだろうな、と思いながらもそうじゃない気もするし、まったくオレはどうなっちまったんだろ?って星也は今、悩んでる。

ユメのマタユメ、だった甲子園が拓海の入部で現実のものとして見えてきたんだ。
つい先日の練習試合で、とうとう英誠は甲子園常連校に堂々、勝ってしまったのだから。

エースとして自分はやらなきゃならないことが山ほどある。

なのに家に帰ると腹立たしくなってイライラするようじゃ、練習にも身が入らない。

ここんとこ、血のつながらない母親を見るのがなんか辛い。母なのか?女なのか?よくわからない。どういうふうに接すればいいのか、いまになってわかんなくなってきた。

朝練の時も、早く起きて朝食を用意してくれる、弁当を作ってくれる。帰りが遅くなっても起きて待っててくれる、夕食を用意して。

バカでかい野球バッグから汚れたユニフォームを出して洗濯して、そう、すぐには寝られない。

そんな母親を「ただの女なのか?」って時に思ってしまう自分はきっと人間のクズ、なんだろう。死にたくなる。

勇士には「もう一球、なにか覚えろ」と言われてる。自分もその必要性は十分にワカッテル。できればスクリューを身につけたい、って思ってる。

プロの投手のビデオや分解写真を材料に研究して早く結果を出さなきゃ。エースなんだから拓海よりも先に新しい変化球をみんなに披露しなきゃ。なのになんにも進んでない。

「アイツはもう、身につけたんだろうか?」

落ちる球、滑る球の習得をやはり勇士から宿題として与えられている拓海のことが
気になった。

「アノヤロウ、やたらと球、はえ~からなあ」

あれで落ちる球を身につけられたら下手したら背番号1をとられるかも。そんな不安もあった。そしてときたま、拓海の才能にヤッカミを感じる自分も嫌だ。

「なんてチイサイんだ、オレは」ってなる。

「1」は誰にも渡したくない。気に入ってる。だいいち、カッコいい。いちどつけたらやめられない。ほかのヒトケタ、じゃダメなんだ。

クソっ~、オレは何をしてるんだ、普通の家庭のヤツがうらやましいってか?
バカたれ、再婚同士がなんだってんだ、そんなこと野球にカンケーネー!

星也はすっかり「日課」となってしまった夜の公園のヒトリブランコを仕方なく切り上げて
家路へとついた。                           
               
                 
                  ※                            


 啓太は最近、かなりへコんでる。
キャプテンになったのは正直、うれしい。もともとそういうタイプだし周りから信頼されるのは嫌ではない。そして甲子園に出られるかもしれない、ってなったこともうれしい。

さらに言うなら、拓海のことも好きだ。

じゃあ、なんでヘコンデルノ?

それはほかでもない「レギュラーがアヤウクナッタから」だ。

夏の大会を最後に三年生が引退して新チームとなり、秋の大会を迎えた。そこで「前監督」は啓太に背番号8をくれた。念願のセンターのレギュラーだ。

しかし英誠は地方大会に出ることなく敗退し来春の甲子園出場の可能性はゼロになった。

そしてその後、チームは拓海を得て一気に強豪校にも負けないほどの戦力となったわけだ。
甲子園が「見えてきた」のだ。

しかしそこで「前監督」がとった「手段」は星也を先発投手の柱とし、拓海を外野手として打線の核を任せ、星也に疲れが見える八回から拓海にリリーフをさせる、そういう編成を敷いたのだ。

そして先日の練習試合で啓太は先発メンバーから外されてしまったのだ。外野はレフト杉山、センター稲森、ライト久保田、そういう布陣となった。

正直、拓海の打撃能力は抜きんでている、そしてあの強肩だ。誰が監督をやっても拓海の四番センターかライトは変わらないであろう。となると残りふたつの外野定位置を現状では自分、そして駿斗、圭介の三人で争うことになる。

やっとつかんだレギュラーの座、絶対に放したくはない、取られてなるもんか。でも現実問題、三人の中では自分が選手としてはいちばん劣っていることは当人がいちばん良く知っていた。

だから最近、みんなの態度が「ヘン」なのだ。

なんか、気を遣ってるというか、同情されてる、っていうか、とにかく普通じゃないのだ。さらに啓太を悩ます、自己嫌悪に陥らすことがあった。

なんてことか、こともあろうに「拓海さえ野球部に入らなければ」という気持ちが時に心の中に芽生えてしまうのだ。そしてこの「悪魔のささやき」が心中に頭をもたげてきたとき、啓太は心底自分がイヤになり「死にたくなってしまう」のだ。

お門違いの責任転嫁と逆恨み、何の罪もない拓海を恨んでしまう
「悪魔のような心を持った自分」

そう考えると啓太はパニックになって息苦しくさえなってしまうのだった。

「何がキャプテンだ。この偽善者が!」

啓太は自分で自分を責め、そして苦しんでいるのだった。 



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