空って、こんなに青かったんだ。
天井を見上げてため息をつくとあきなが下を見ていた顔を上げて眼を大きくした。
「あのね」
あきなは拓海を見て
「飲まないの?」
って訊いた。
「美味しいよ」
というと言葉を続けた。
「おととしね、おじいちゃんが亡くなったの。うち」
「そうだったんだ」
「うん。それでね、それからしばらくしてね、お父さんが言ってたの」
「なんて?」
「今思うと、父親って男にとって最初にぶつかる壁、ライバルで、それは死なれてしまうまでずっと越えられないまま続くんだ、って」
「・・・・」
「でね、認めてんのに認めたくなくて、ありがたいと思ってるのに素直になれなくて、いつまでも逆らうんだ、って」
「そうなんだ」
「うん、そう言ってた」
あきなはそう言い終えるとまた、ニコッと笑って
「ミルク、もっと入れるときっと美味しいよ」
とミルクの入ったピッチャーを拓海のほうに差し出した。
拓海は言われるがままにミルクを継ぎ足してストローでかき回した。ついでにガムシロも足して飲んでみた。
「ウワッ、甘すぎた~」
拓海がしかめっ面をするとあきなも顔をしかめて笑った。
あきなと一緒にいるとイヤなことも何があってもスッと消化されて、心のなかの霧が晴れて、高原の朝のようになる。だからフシギ。
拓海はそう思いながら甘すぎるアイスコーヒーを飲み続けた。
ひと夜明けたあくる日、八時からの練習はまず守備練習から始まった。
内野手はダイヤモンドでランダウンプレーの練習。これは監督がつきっきりで
基本からの習得だ。
たぶん、昨日の紅白戦でのあるプレーが監督の目に留まったんだろうとみんなは思っていた。
そのプレーは七回の白組の攻撃中、ワンアウト三塁で打者はスクイズを外された。
当然三塁ランナーは挟まれたんだけど、紅組はそのランナーを本塁方向に追い込んでスンデノところでタッチして殺したのだった。
しかも三回も四回もボールを行ったり来たりさせて、あげくは重たい防具をつけた勇士が追い込んでやっとのこと、終わらせたのだった。
これでは合格点はもらえない。挟殺プレーは若い塁に追い込んで殺すのが鉄則だ。
拓海は父親にくどいほど叩き込まれていたので
「今日は何も言わない」
と言った新監督がこのプレーをどう見るか?をある意味、注目していたのだった。
それが終わると今度はバント処理、しかもランナー一塁の場合と二塁の場合のふた通りを、さらに複数の守備体系でランナーを封殺する練習をこれも、みっちり。
それだけで午前中は終わってしまった。その間、外野手は外野でノックを受ける、しかもノッカーはライナーで外野手の頭上を越す打球に「特化」するように監督から指示が出ていた。
これにも意味があって外野手なら誰でも知っているんだけどこの打球、つまり頭上をライナーで越される打球がいちばん難しいのだ。
これを目測を付けて落下地点に一目散に走る練習を「ミッチリ」さらに「念の」入ったことに他の外野手は横に位置してその打球を見ながらどこで振り向けば良いかを大声でアドバイスするのだ。
言われた当人は自分の勘、プラス、アドバイスをもとに落下地点に行く。それが終わった
後は返球。ここでの監督のアドバイスは低く正確に、とカットマンを狙わずに最終目的地に「真っすぐに」
なぜならカットマンが必ずしも直線上にいるとは限らないから、だと。
その場合、仮に良いボールが返って来ていてもノーカットに変更できなくなるから。
新監督の説明はそうであった。
昼食と休憩は練習の一部、とも言われた。はしゃいだり大きな声での無駄話は禁止された。午後は内外野合同でカットプレーとピックオフプレー。
特にピックオフプレーは何通りものサインプレーをベンチ主導、捕手主導、内野手主導でミッチリ、その間外野手はポケットに入れたゴムでインナーマッスルの強化。途中休憩が入り、気が付けばもう夕方になっていた。
日曜日は四時には終わらそう、と新監督は言っていたけど、その通りにミーティングも含めてきっかり四時に練習は終わった。
そして最後に監督は
「平日も四時には来るよ」
と言い残して今日は例のバックホウではなく高級乗用車で悠々と帰って行った。
「みっちりやったなあ~」
「疲れたあ~」
「シゴカレタわけじゃないのにこのシゴカレタ感?なあに?」
部室に戻るなり全員がヘタリ込んで床に座ってしまった。しばらく誰も口をきかなかったけど、その沈黙を破るように勇士がポツリと言った。
「知ってんな」
「ああ」
「良かったんじゃね?」
「正解だな」
「うん」
誰彼となく小島社長に新監督をお願いしたことを正しい判断だったといまは感じていたのだった。
「そういえば、オマエはやっぱ抑えケンニン、なんだな」
壁にもたれ掛かったままの健大が水筒を口に当てながらつぶやいた。
「そうだな。そういえばピックオフプレーの時、よばれてたもんな」
勇士がそばから口を挟んできた。
拓海はシニアリーグ時代、連係プレーはあまりやらなかった。監督がやらせなかったのである。あまりにも負担が大きくなるからだ、四番で抑えで連係もじゃ、と。
今日拓海が言われたのは
「どんなときでも絶対にプレートを外してから」
ボークをとられたんじゃ元も子もない、と。
そんなの基本中の基本なんだけど、それがなかなか緊張した場面では忘れがちになるのだ。
このプレーは絶体絶命の場面でしか使われない。
つまり相手にとってはまさに千載一遇の絶好機、こちらは死の底に突き落とされる一歩手前のところなわけだ。
だからこそ監督は耳が痛くなるくらいに基本に戻ったに違いなかった。
そんな中で、スナップも肘も強い拓海は実に小さいフォームからも素早い送球が出来たので監督からも最大限の「賛辞」をもらった。
そして
「稲森、これをものにすれば相手を天国から引きずり落として自分は地獄から脱出できるゾ!」
と新監督は力を込めて拓海に言ったのだ。
さらに星也には伝授しなかった「必殺技」をも拓海に教えたのだった。
「明日は何やるんだろ?」
「なんか、楽しみでもあるしこわくもあるな」
「たしかに」
みんな、充実した練習で心地よい疲れに身を任せていたいんだろう、誰も立ち上がろうとはせず、しばらくボっーとしていた。
そんなこともあってその日、なじみの餃子屋に着いたのはもう六時に近かった。
※
駿斗の父親はめったにグラウンドへは行かない。今日も晩酌をしながら息子の帰りを待っている。数日前、小島社長かっこ新監督に会った。ふたりで久しぶりに呑んだのだ。
そして帰り際
「しばらく会わね~ぞ」
と新監督に言った。
「ああ、こっちもだ。俺が辞めたら呑もう」
「よっしゃ」
ふたりはそう言って店をあとにしたのだった。
駿斗の父親と新監督はもう十年来のつき合いだ。共通の知り合いがいて懇意になったのだけど妙に馬が合っていつの間にかふたりでちょくちょく呑むようになった。
呑み話のなかで小島社長が相当の野球の腕前でありかなりの球歴を持つ男であることを駿斗の父親はグウゼンニモ知った。しかし詳しくはわからない、完璧に素性をオサエタわけではない。
そんなある日、息子から
「監督が辞めちゃうので誰かいい後任、いないかな?」
と晩飯の最中に相談を受けたので小島社長の顔が浮かんで頼んでみよう、と思ったわけである。
それがつい、先日だ。
ただ「頼んでみよう」と即決したのにはわけがある。
「スゲ~奴が入ってきたよ!」
とそのさらに数日前、息子から聞いていたのだ。なので根っからの野球好きな父は練習試合を見に行ったわけである。
そうそう、ここでちょっと断っておくけど駿斗の父親は決して野球嫌いだったり息子に対しての愛情が薄いのでグラウンドに行かないわけではナイ。息子ももういい歳、当然男だ。
大の男の部活動ごときに毎週毎週父親参観でもあるまいしミットモナイ、というのが彼のポリシーなわけ。つまりいまではすっかり稀少人種となった「星一徹」風の古い父親なのだ。
ちなみにこの試合は英誠学園が甲子園常連校を初めて破った、創部以来初の大金星を挙げた、あの試合だ。ここで父は息子曰くの「スゲ~奴」を目の当たりにして
「コレはマジでコウシエン、ありえんじゃね?」
と思いちょっと本気で応援、してみるか?と考えていた矢先だったのである。
しかしいくら旧知の仲、といえども都市対抗経験者にタダノ穴埋めを頼むわけにはいかなかった、サスガニ。なので
「鍛えようによっては脈はある」
と説明した。そして小島社長は当然のごとく
「もちろん、脈ナシよりはそっちのほうがいい」
と言った。
だけど
「まあ、それがすべてじゃないけど」
とつけ加えることも忘れなかった。
そんなとこでも価値観がふたりは共通していたのだ。そしてもうひとつ、監督就任の条件として「お互いに他人になる」こと、就任から辞任までのあいだ。
つまり駿斗に温情がかからぬよう、ふたりはその日から見知らぬふたりになったわけだ。
そしてその話は父から息子にした。
「実力が同じならお前じゃない選手を使うように頼んである。監督もそれを了承した」つまり
「まあ、そこそこやってればレギュラーは何とかなるだろ」
という甘い考えはステロ、ということだった。
オヤジの性格からして十分にアリエルこと、とは思っていたが「やっぱりね」と駿斗はなかばアキラメに近い心境になった。
ただ、ことのいわれはみんなが知ってる。みんなが???と思うようなメンバー組みはやっぱ、ヤバイし、啓太や圭介、それにほかの外野手に悪いし失礼でもある。
それに「フセイ」があっちゃ卒業した後、OB会に呼ばれないってこともあり得る、などと駿斗は駿斗なりにいろいろと考えを巡らせたわけだ。当たり前に、それはイヤだ、絶対に、となる。
でもせめて「同じならお前じゃない選手」じゃなくて「同じならクジビキ」程度ににしてほしかった、オレは・・・・。
それくらい外野争いは厳しく、激しい。なんでかって、最初からみっつ、じゃなくてふたつ、なんだから、ポジションが・・・・
でも、と駿斗は考えた。
「あいつのお陰で甲子園、イケルカモ、ってなったんだからな。タショウノコト、はガマンガマン」
「あのね」
あきなは拓海を見て
「飲まないの?」
って訊いた。
「美味しいよ」
というと言葉を続けた。
「おととしね、おじいちゃんが亡くなったの。うち」
「そうだったんだ」
「うん。それでね、それからしばらくしてね、お父さんが言ってたの」
「なんて?」
「今思うと、父親って男にとって最初にぶつかる壁、ライバルで、それは死なれてしまうまでずっと越えられないまま続くんだ、って」
「・・・・」
「でね、認めてんのに認めたくなくて、ありがたいと思ってるのに素直になれなくて、いつまでも逆らうんだ、って」
「そうなんだ」
「うん、そう言ってた」
あきなはそう言い終えるとまた、ニコッと笑って
「ミルク、もっと入れるときっと美味しいよ」
とミルクの入ったピッチャーを拓海のほうに差し出した。
拓海は言われるがままにミルクを継ぎ足してストローでかき回した。ついでにガムシロも足して飲んでみた。
「ウワッ、甘すぎた~」
拓海がしかめっ面をするとあきなも顔をしかめて笑った。
あきなと一緒にいるとイヤなことも何があってもスッと消化されて、心のなかの霧が晴れて、高原の朝のようになる。だからフシギ。
拓海はそう思いながら甘すぎるアイスコーヒーを飲み続けた。
ひと夜明けたあくる日、八時からの練習はまず守備練習から始まった。
内野手はダイヤモンドでランダウンプレーの練習。これは監督がつきっきりで
基本からの習得だ。
たぶん、昨日の紅白戦でのあるプレーが監督の目に留まったんだろうとみんなは思っていた。
そのプレーは七回の白組の攻撃中、ワンアウト三塁で打者はスクイズを外された。
当然三塁ランナーは挟まれたんだけど、紅組はそのランナーを本塁方向に追い込んでスンデノところでタッチして殺したのだった。
しかも三回も四回もボールを行ったり来たりさせて、あげくは重たい防具をつけた勇士が追い込んでやっとのこと、終わらせたのだった。
これでは合格点はもらえない。挟殺プレーは若い塁に追い込んで殺すのが鉄則だ。
拓海は父親にくどいほど叩き込まれていたので
「今日は何も言わない」
と言った新監督がこのプレーをどう見るか?をある意味、注目していたのだった。
それが終わると今度はバント処理、しかもランナー一塁の場合と二塁の場合のふた通りを、さらに複数の守備体系でランナーを封殺する練習をこれも、みっちり。
それだけで午前中は終わってしまった。その間、外野手は外野でノックを受ける、しかもノッカーはライナーで外野手の頭上を越す打球に「特化」するように監督から指示が出ていた。
これにも意味があって外野手なら誰でも知っているんだけどこの打球、つまり頭上をライナーで越される打球がいちばん難しいのだ。
これを目測を付けて落下地点に一目散に走る練習を「ミッチリ」さらに「念の」入ったことに他の外野手は横に位置してその打球を見ながらどこで振り向けば良いかを大声でアドバイスするのだ。
言われた当人は自分の勘、プラス、アドバイスをもとに落下地点に行く。それが終わった
後は返球。ここでの監督のアドバイスは低く正確に、とカットマンを狙わずに最終目的地に「真っすぐに」
なぜならカットマンが必ずしも直線上にいるとは限らないから、だと。
その場合、仮に良いボールが返って来ていてもノーカットに変更できなくなるから。
新監督の説明はそうであった。
昼食と休憩は練習の一部、とも言われた。はしゃいだり大きな声での無駄話は禁止された。午後は内外野合同でカットプレーとピックオフプレー。
特にピックオフプレーは何通りものサインプレーをベンチ主導、捕手主導、内野手主導でミッチリ、その間外野手はポケットに入れたゴムでインナーマッスルの強化。途中休憩が入り、気が付けばもう夕方になっていた。
日曜日は四時には終わらそう、と新監督は言っていたけど、その通りにミーティングも含めてきっかり四時に練習は終わった。
そして最後に監督は
「平日も四時には来るよ」
と言い残して今日は例のバックホウではなく高級乗用車で悠々と帰って行った。
「みっちりやったなあ~」
「疲れたあ~」
「シゴカレタわけじゃないのにこのシゴカレタ感?なあに?」
部室に戻るなり全員がヘタリ込んで床に座ってしまった。しばらく誰も口をきかなかったけど、その沈黙を破るように勇士がポツリと言った。
「知ってんな」
「ああ」
「良かったんじゃね?」
「正解だな」
「うん」
誰彼となく小島社長に新監督をお願いしたことを正しい判断だったといまは感じていたのだった。
「そういえば、オマエはやっぱ抑えケンニン、なんだな」
壁にもたれ掛かったままの健大が水筒を口に当てながらつぶやいた。
「そうだな。そういえばピックオフプレーの時、よばれてたもんな」
勇士がそばから口を挟んできた。
拓海はシニアリーグ時代、連係プレーはあまりやらなかった。監督がやらせなかったのである。あまりにも負担が大きくなるからだ、四番で抑えで連係もじゃ、と。
今日拓海が言われたのは
「どんなときでも絶対にプレートを外してから」
ボークをとられたんじゃ元も子もない、と。
そんなの基本中の基本なんだけど、それがなかなか緊張した場面では忘れがちになるのだ。
このプレーは絶体絶命の場面でしか使われない。
つまり相手にとってはまさに千載一遇の絶好機、こちらは死の底に突き落とされる一歩手前のところなわけだ。
だからこそ監督は耳が痛くなるくらいに基本に戻ったに違いなかった。
そんな中で、スナップも肘も強い拓海は実に小さいフォームからも素早い送球が出来たので監督からも最大限の「賛辞」をもらった。
そして
「稲森、これをものにすれば相手を天国から引きずり落として自分は地獄から脱出できるゾ!」
と新監督は力を込めて拓海に言ったのだ。
さらに星也には伝授しなかった「必殺技」をも拓海に教えたのだった。
「明日は何やるんだろ?」
「なんか、楽しみでもあるしこわくもあるな」
「たしかに」
みんな、充実した練習で心地よい疲れに身を任せていたいんだろう、誰も立ち上がろうとはせず、しばらくボっーとしていた。
そんなこともあってその日、なじみの餃子屋に着いたのはもう六時に近かった。
※
駿斗の父親はめったにグラウンドへは行かない。今日も晩酌をしながら息子の帰りを待っている。数日前、小島社長かっこ新監督に会った。ふたりで久しぶりに呑んだのだ。
そして帰り際
「しばらく会わね~ぞ」
と新監督に言った。
「ああ、こっちもだ。俺が辞めたら呑もう」
「よっしゃ」
ふたりはそう言って店をあとにしたのだった。
駿斗の父親と新監督はもう十年来のつき合いだ。共通の知り合いがいて懇意になったのだけど妙に馬が合っていつの間にかふたりでちょくちょく呑むようになった。
呑み話のなかで小島社長が相当の野球の腕前でありかなりの球歴を持つ男であることを駿斗の父親はグウゼンニモ知った。しかし詳しくはわからない、完璧に素性をオサエタわけではない。
そんなある日、息子から
「監督が辞めちゃうので誰かいい後任、いないかな?」
と晩飯の最中に相談を受けたので小島社長の顔が浮かんで頼んでみよう、と思ったわけである。
それがつい、先日だ。
ただ「頼んでみよう」と即決したのにはわけがある。
「スゲ~奴が入ってきたよ!」
とそのさらに数日前、息子から聞いていたのだ。なので根っからの野球好きな父は練習試合を見に行ったわけである。
そうそう、ここでちょっと断っておくけど駿斗の父親は決して野球嫌いだったり息子に対しての愛情が薄いのでグラウンドに行かないわけではナイ。息子ももういい歳、当然男だ。
大の男の部活動ごときに毎週毎週父親参観でもあるまいしミットモナイ、というのが彼のポリシーなわけ。つまりいまではすっかり稀少人種となった「星一徹」風の古い父親なのだ。
ちなみにこの試合は英誠学園が甲子園常連校を初めて破った、創部以来初の大金星を挙げた、あの試合だ。ここで父は息子曰くの「スゲ~奴」を目の当たりにして
「コレはマジでコウシエン、ありえんじゃね?」
と思いちょっと本気で応援、してみるか?と考えていた矢先だったのである。
しかしいくら旧知の仲、といえども都市対抗経験者にタダノ穴埋めを頼むわけにはいかなかった、サスガニ。なので
「鍛えようによっては脈はある」
と説明した。そして小島社長は当然のごとく
「もちろん、脈ナシよりはそっちのほうがいい」
と言った。
だけど
「まあ、それがすべてじゃないけど」
とつけ加えることも忘れなかった。
そんなとこでも価値観がふたりは共通していたのだ。そしてもうひとつ、監督就任の条件として「お互いに他人になる」こと、就任から辞任までのあいだ。
つまり駿斗に温情がかからぬよう、ふたりはその日から見知らぬふたりになったわけだ。
そしてその話は父から息子にした。
「実力が同じならお前じゃない選手を使うように頼んである。監督もそれを了承した」つまり
「まあ、そこそこやってればレギュラーは何とかなるだろ」
という甘い考えはステロ、ということだった。
オヤジの性格からして十分にアリエルこと、とは思っていたが「やっぱりね」と駿斗はなかばアキラメに近い心境になった。
ただ、ことのいわれはみんなが知ってる。みんなが???と思うようなメンバー組みはやっぱ、ヤバイし、啓太や圭介、それにほかの外野手に悪いし失礼でもある。
それに「フセイ」があっちゃ卒業した後、OB会に呼ばれないってこともあり得る、などと駿斗は駿斗なりにいろいろと考えを巡らせたわけだ。当たり前に、それはイヤだ、絶対に、となる。
でもせめて「同じならお前じゃない選手」じゃなくて「同じならクジビキ」程度ににしてほしかった、オレは・・・・。
それくらい外野争いは厳しく、激しい。なんでかって、最初からみっつ、じゃなくてふたつ、なんだから、ポジションが・・・・
でも、と駿斗は考えた。
「あいつのお陰で甲子園、イケルカモ、ってなったんだからな。タショウノコト、はガマンガマン」