空って、こんなに青かったんだ。
第十三章
 「九回の裏、作川学院の~攻撃は~八番、ライト~松川くん」

下位打線から始まった最終回の相手の攻撃を、拓海はいとも簡単に二者連続で三振を奪い二死を取った。ともに三球三振、一球もカスリモしない圧倒的な三振奪取でだ。

あとひとりで、夢にまで見た甲子園にたどり着く。

「イチバン、レフト川崎くん!」

三塁側スタンドも悲鳴にも似た応援だ。ブラスバンドと太鼓、チアーリーダーが最後の力を振り絞っての大声援を送っている。

そして一塁側、英誠学園応援団もいっしょだ。

もう泣いている女子生徒も多い。こちらも悲願の甲子園初出場が目の前に迫っているのだ。

「ウタセルゼ~!」

勇士がマスクをヘルメットにあげて大声でナインにカツを入れる。でもそう言う勇士も
毛頭打たせる気などナイ。ただ拓海に気負わせないためのカムフラージュだ。


相手は右打席、勇士はアウトコース低めに真っすぐを要求した。
「ヨシ!ワカッタ!」

拓海は振りかぶり思い切って腕を振った。

「ゴツッン」

なにやら鈍い音がして打球は力なく二塁方向へと転がってイッタ。
試合終了だ!

ゲームセット!

?????

と誰もが思った瞬間、その打球はポロリと護のグラブからコボレタ。
???っん?どうした?オワリジャないのか?

そう、オワリジャなかったのだ。

弱弱しく転がって行った凡ゴロは護の一歩手前でイレギュラーして、ボールは無情にも護のグラブには収まらずに、出てきてしまったようだった。

よっぽどつかまるのが「や」だったようだ。

「悪い・・・・」

護が拓海に右手を真っすぐに立てて謝った。

「オーケー!」

拓海もさして気にも留めない感じで護に手をふってからプレート付近に置いてあるロージンに手をやった。

まあ、確かにイレギュラーをシタニハシタのだがけっして捕れない打球ではなかった?

護も硬くなっていたことは否めない。でもまだ一点勝ってる、どうということもないし誰にも悪気、はないのだ。

健大からも声が飛ぶ。

「気にするな、ツギツギ!」

そう、次に打球が来たらトレバいい、のだ。

「ドンマイドンマイ!ツーアウトだ、シマッテ行こう~~~!

勇士が気合を入れる。そう、まだみんなここまでは落ち着いていたのだ、余裕もあったし、スコシハ。

しかし二番バッターの平凡なゴロを今度はなんと名手の亮太がファンブルしてしまったのだ。
エッ???

それは誰もが目を疑う光景だった。

だって練習でも紅白戦でも、とにかく同級生は亮太がエラーをするところを「ミタことがない」のだ。

「ハツタイケン」なのだから、そりゃ~オドロク。

これで「もう終わった!」と勝利を二度確信して、二度ともウラギラレタのだ。
こうなるとなんだか居心地ってもんは悪くなってくる。

応援団もなんだかソワソワしてきた。
なんかみんなが落ち着かなくなってくる。

ブチョウ先生はこの試合で初めての守りのタイムを要求して伝令をマウンドに行かせた。
三年生の控え内野手の野口だ。

「わかってるだろうけど、勝ってるんだよ、まだ。なにもアワテルことナイヨ。拓海のボールは十分にキテルし相手は当てるだけで精いっぱいなんだから。

ブチョウ先生もオチツイテタ!」

そういうと野口は笑って
「楽にイコウ!」
とダッグアウトに引き揚げて行った。

「だよな、勝ってるしマダ!」

「ダナ。そんなに簡単にイッタンじゃ、アリガタミもなくなるしな!」

「ヨッシャ~!ここからココカラっ!」

拓海たちは輪をといて内野陣は守備位置に戻って行った。センターからは啓太が声を掛けてくれた。

「打たせていいぞzzzz!」

圭介が叫ぶ。

「こっちコイっ!」

そして駿斗が大人しくグラブを掲げる。そう、彼はムクチ、なのだ。
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