空って、こんなに青かったんだ。
第三章
 いくら青春真っ盛りの丈夫すぎる高校生とはいえたったの一日、一学期の終業式の日の三回戦に負けて翌日のわずか一日を休養に充てて、野球部の練習は再開されたのだった。

つまりのところ、新チームの門出である。

ここで少し、高校野球について話しておこうかな。
くわしい人にはゴメンナサイね、しばらくの間、お付き合いくださいませ。

高校の野球部には、つまり高校野球には一年に三回の都道府県大会と二回の全国大会がある。二回の全国大会というのが高校球児なら誰もが出場を熱望する春の甲子園と夏の甲子園だ。

そして年度の最初の都道府県大会が春の大会。これには新入生も出場できる。勝ち抜いて優勝、準優勝すると地方大会に出ることが出来る。

地方大会の開催県は三位まで出場可能な時もある。だけどこの春の大会は甲子園にはつながらないんだ。

いくら勝ってもそこまで、地方大会優勝という「名誉」がもらえるだけ、なんだ。

甲子園につながるのは次の夏の大会。これはトーナメント方式で行われて、各都道府県大会の優勝チームがあこがれの甲子園に出場できるんだ。

東京都と北海道は東西と南北に分かれていて、それぞれ二チームが甲子園に行くことが出来る。

この夏の大会が終わると、つまり「負けた瞬間に」三年生は引退して、一、二年生のみで新チームが結成される。つまり、今日の英誠野球部がそれだ。英誠学園野球部についてはまたあとで話すね。

夏の大会が終わって新チームで戦うのが秋の大会。各府県大会の優勝、準優勝チームは地方大会に出場する。ただし東京都と北海道はそこまで。この先の地方大会はナシ。

春と同じく開催府県は三位まで、時に四位まで出れることもある。ただし春の地方大会と異なるのはこの大会の成績があくる年の春の甲子園出場に「つながる」ってことなんだ。

つまり、この秋の大会の成績などを参考にしてあくる年の一月に選考委員が春の全国大会、これを世間では「春の甲子園」と呼ぶ、の出場チームを選ぶ、「選抜」するんだ。だから「春の選抜」っていう。

一方、トーナメント方式の一発勝負で行われる夏の甲子園は「選手権」って呼ばれるんだ。

もっと詳しく言うと、この秋季大会の各地方大会優勝チームが集まって明治神宮大会というのも行われる。これも正確には全国大会なんだけど、会場は東京の神宮球場。

だから確かに全国大会ではあるけどちょっとニュアンス?は違ってくる、みたいな・・・・

まあ、語弊はあるけどだから「年二回の全国大会」って言ったんだ。

そしてこれから続々と夏の大会に敗退したチームが新チームを結成して秋大会、つまり来春の甲子園を目指すんだ。先んずれば人を制す、気の早い英誠野球部は一足、いや、夏の甲子園優勝チームに比べれば約ひと月も早く来春の甲子園目指して準備を始めた。

早い話、今日から練習、ってことだ。グラウンドでの練習に先駆けてまずミーティングがあった。それは監督よりの抱負と新キャプテンの発表だった。

前回、前チームではキャプテンで失敗?したので勇士はじめ全部員はこの監督の指名を心より恐れた。頼むから変な奴を指名しないでくれ、と発表のあいだ、心の中で手を合わせて皆で祈っていたのだ。

だから次の瞬間「金子、お前がキャプテンだ」と監督の声がしたとき、二年生全員が胸を撫で下ろした。勇士などは思わず「うぉ~」と歓喜とも安堵ともつかない呻き声を上げたほどだったから。

「よかったよな~ヘンな奴じゃなくて~」

そのあとユニフォームに着替えからグラウンドをランニングしながら、メンバーは口々に喜びと安心を囁き合ったくらい。

「啓太なら大丈夫だよ」

みんなそんなことを言いながらアップを始めた。そんな中、ランニングの群れの中で圭介が勇士に話しかけた。

「でもさ~おとといのことだけど・・・・」

「えっ?」

「ほら、俺たちの欠点やこれからのことだよ」

「ああ、あれかあ~」

ふたりは一昨日のこと、つまり三回戦に負けた日の啓太の家での「ハンセイカイ」のことを思い出しながらランニングを進めていたようだ。

ここで少し時間を戻して一昨日の夜にタイムスリップしてみよう。啓太の家で風呂に入り、鰻をご馳走になってそのあと部屋でゴロゴロしながらやはり話は野球がメインだった。

もちろん夢は高校球児である以上、甲子園なのだがそのためにはやっぱり我がチームには足りないものがある。というか足りないだらけだ。

そう言い出したのは勇士であり、悲しいかな皆がそれに同調したわけ。

「このままじゃ、キビシイよな」

「ああ」

「何が足りない?」

「全部だろ」

「馬鹿、それじゃ話が進まないだろ」

そんなことを皆皆で言いながらグタついていると健大がそれとなく沈黙を破った。

「柱がいないよな・・・・」

彼は、そう言った。

「ああ、そうだな」

それに啓太が小さな声で続いた。

「打っても、投げても、か?」

勇士が健大に訊き返した。そしてまた暫しの間があった。

「いや、先発は川津でいいと思う。問題は抑えと四番だと思う」
やっぱり、監督は選手たちをよく見ている。啓太がそう勇士に言ったのだ。
どうやら今回のキャプテンは正解のようだ。そしてみんながそれに従った。

「そうだな、さすが啓太だ。その通りだと思うよ」

みんなの意見を総合するとこうだ。

クリーンナップの候補はいる、健大、勇士、護、圭介・・・・。だけどみんな三番か五番だ。あるいは六番にいてこそ相手は嫌がる、そんなタイプだ。
相手にビビるほどの恐怖感を与えるまではいかない、誰もかれもが、カナシイかな。

四番がほしい。確実性と長打力、つまり打率とホームラン、両方兼ね備えたバッターが。ここぞ、というときに打つ、そんなバッターが。たとえ凡退しても

「あいつが打てないんじゃ仕方ない」
とみなが納得するバッターが。

そしてもうひとつ、川津のあとの抑えピッチャーが。
出来れば左腕の技巧派である星也のうしろだから、右の本格派?が良い?
ちょっと贅沢すぎね?

つってことは、ふたり足りね?だよね?みんなの頭の中を同じ考えがよぎった。
二年生の中にそんな選手がいるか?って。そしてみんな、思った。イナイ、と。

「来年の新一年に期待する?」

「ば~か、おせーよ」

「個々のレベルアップ?」

「まあ、悪くはないけど」

「やっぱトレード?」

「やっぱりお前って、馬鹿なの?」

「たしかに・・・・」

みんなそこで、再びスイカを食べだした。モクモクと種を出すもの、
平気で飲み込むもの、まちまちだ。

まるで無心で餌にありつくカブトムシのように静かになった。
そんな時、種を丁寧にティシュに包みながら護が切り出した。

「転校生でも来ないかな。野球の達人の・・・・」

笑いながら、勇士が受けた。

ねえ、ねえ。そんなのアリ?」

「たしかに、虫、よすぎだろ?」

「第一、出れね~だろ、転校生じゃ」

「そうだそうだ」

また、みんなでスイカに精を出し始めた。高校生はいくらでもなんでもお腹に入るんだな。これが。そしてしばらくすると今度は啓太が口を開いた。

「そういえば、転校生ってあいつ以来、来てないなあ~」

「あいつって?」

「ほら、今、タケヒロたちのクラスの」

「ああ、なんて言ったっけ?アイツ」

勇士が健大に訊く。

「稲森だろ?」

めんどくさそうに健大が答えた。

「あいつ、帰宅部だろ?」

「だな」

話はそこで終わった。だって、誰も拓海が野球をやってたなんて知らないし思ってもないし、健大イガイは。














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