常務の秘密が知りたくて…
「こ、こんなに色々することがあるなんて」

 隣接された給湯スペースでどっと項垂れる。事務仕事は慣れているが実はそれ以外の雑務のほうが本命なのだとようやく気づいた。

 続いては綺麗に並べられた茶葉たちを恨めしく見つめる。ここはどこかの喫茶店か! と言いたくなるほど日本茶を始めコーヒー豆や紅茶の茶葉などがところ狭しと並んでいる。

 秘書になった翌日に常務に頼まれて出したお茶だが、これもまた一蹴されてしまった。あのときの常務の微妙な顔は忘れることが出来ない。

 秘書課にいたときはお徳用の茶葉にポットのお湯を使って急須にそのまま淹れるのご慣例だったが、ここではそういうわけにはいかないらしい。

 悔しかった私はその日の帰りに美味しい飲み物の淹れ方についての本を買ったのだ。お茶はもちろんコーヒーや紅茶など幅広いジャンルがカバーされていて意外と読みやすくはまってしまいそうだ。休憩時間などに練習がてら自分の分を淹れたりしている。

 それにしても次は簡単な花の生け方の本を買った方がよさそうである。ついでにお礼状などの文例集も買っておこう。常務に代わって書くことが多々あるし。あと歳時記もいるかな。

 なかなか出費もかさむし前途多難だ。いやこの状況で最初から何もかも上手く出来る人なんてきっといない……そんなフォローをしてくれる人もいないのでこうして自分で自分を慰めるしかないのがなんとも空しいのだが。

 もちろん常務が優しい言葉なんて投げかけてくれるはずもなく、この調子なら不満を感じた常務にあっさりクビにされてしまうかもしれない。

 色々思い巡らせながらもお茶を淹れたので常務のところに持っていく。業務中はコーヒーだったりするが朝一番に常務がご所望するのは決まって日本茶なのだ。
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