小説家らしき存在
「あるところに、『つねいつぐと』という小説家がおりました。」
「ご自分のお話ですか?」
やはり興味がある話を聞くと、眠気が覚めていく
「その小説家は、すでにたくさんの小説を世に出してきましたが、それぞれの作品が、まるで別々の人間が書いたかのようで、文体を自在に操る、『多重人格作家』などという珍しい評価を受けてきた。」
「そこが、先生の小説の素晴らしいところじゃないですか。」
僕は彼のほとんどの小説を見たが、確かに思い返せばすべて違う性格である。
「しかし、そんな小説化の話は知っていても、小説家自身の『顔』を知っている方は、おりませんでした。」
「こうしてお会いできて光栄でした。お若くてびっくりしましたけどね。」
「ある日、そんな小説家の屋敷に、一人の男が、出版社から尋ねて来ました。」
「おっ。僕のことですねぇ?」
「男は出されたお茶を飲み、原稿の完成を待ちました。」
「いつも、そうなんですね。」
「いつも、執筆している間、男は、眠くなってきてしまいました。」
「あぁ..お恥ずかしい。」
「しかし、そうなることを小説家は知っていました。」
「え?」
僕は思わず言ってしまう。
「睡眠役を飲ませたんです。」
彼はそう呟いた。
「おっ、おぉー?面白くなってきましたねぇ。ミステリーですか?」
俄然、集中力が増してきた。こういう話は大好きだ。
先生は淡々と話を続ける。
「なぜそんなことをしたのか、それには、小説家『つねいつぐと』という人物がはたして本当に存在するのか?と言う所からお話しなければいけません。」
「いいですねいいですね。僕は花坂爺さんより、そういうのが好きです。」
「実は、「つねいつぐと」とは架空の人物で、ある出版社の社員だったんです」
はたして現実か、ただのおとぎ話なのか、疑問を感じる。
「ペンネーム、だったって事ですか?」
「それぞれの作品で、人格が違うのは、それぞれの作品を本当に別々の人間が書いているからだったんです。」
「どういうことですか?」
突然の告白に頭がついていけない。
彼はよっこらせ、と立ち上がりドアのほうに行くと、こう言った。
「『つねいつぐと』、どんな字で書きましたっけねぇ」
「常に居る、次の人。」
僕はそう言いながら、空中に文字を書く。
そうすると、常居次人は急に体が軽くなったようになり、眼鏡を外して
「あんたの事だよ。」
「は?」
「僕が常居次人を演じる役はもう終わりました。」
え?
「自分の持ち込んだ原稿を、自分で書き上げましたからねぇお見せできないのか残念だなんせあなたは、他社の人間だから。」
「あなた何を言っているんですか?」
「誰にも一生に一本くらいは面白いお話を作ることができるんですねぇ。さぁ、あんたは101人目の常居次人として、自分の持ち込んだ原稿を書き上げるまで、帰ることはできない。」
「そんな馬鹿なもんがあるもんか!」
「初めは私もそう思いましたよ!!」
彼は怒りに満ちた顔でそう言う。
「でもね、これは事実なんだ..今の出版界に必要なものは何だ?あんたも、業界の人間ならわかるだろ。」
突然の質問に一瞬思考停止する。
「..常居次人のような、天才だ...」
「そう、そんな我々の身勝手な想いが、この常居次人という残酷なシステムを作り上げてしまったんだよ。」
彼は冷酷に言う。
「さぁ、私は一編集社に戻ります。頑張って『文豪・常居次人』の名を汚さぬよう、良い作品を書きあげて下さい。」
「ちょっと待ってくれ!それじゃ、僕は、今から、.....」
その瞬間、首筋に激痛が走り、倒れこんでしまう。
.......
彼は眼鏡を椅子に置き、
「頑張ってくださいねぇ....先生。」
そう言って部屋を出た。
「ご自分のお話ですか?」
やはり興味がある話を聞くと、眠気が覚めていく
「その小説家は、すでにたくさんの小説を世に出してきましたが、それぞれの作品が、まるで別々の人間が書いたかのようで、文体を自在に操る、『多重人格作家』などという珍しい評価を受けてきた。」
「そこが、先生の小説の素晴らしいところじゃないですか。」
僕は彼のほとんどの小説を見たが、確かに思い返せばすべて違う性格である。
「しかし、そんな小説化の話は知っていても、小説家自身の『顔』を知っている方は、おりませんでした。」
「こうしてお会いできて光栄でした。お若くてびっくりしましたけどね。」
「ある日、そんな小説家の屋敷に、一人の男が、出版社から尋ねて来ました。」
「おっ。僕のことですねぇ?」
「男は出されたお茶を飲み、原稿の完成を待ちました。」
「いつも、そうなんですね。」
「いつも、執筆している間、男は、眠くなってきてしまいました。」
「あぁ..お恥ずかしい。」
「しかし、そうなることを小説家は知っていました。」
「え?」
僕は思わず言ってしまう。
「睡眠役を飲ませたんです。」
彼はそう呟いた。
「おっ、おぉー?面白くなってきましたねぇ。ミステリーですか?」
俄然、集中力が増してきた。こういう話は大好きだ。
先生は淡々と話を続ける。
「なぜそんなことをしたのか、それには、小説家『つねいつぐと』という人物がはたして本当に存在するのか?と言う所からお話しなければいけません。」
「いいですねいいですね。僕は花坂爺さんより、そういうのが好きです。」
「実は、「つねいつぐと」とは架空の人物で、ある出版社の社員だったんです」
はたして現実か、ただのおとぎ話なのか、疑問を感じる。
「ペンネーム、だったって事ですか?」
「それぞれの作品で、人格が違うのは、それぞれの作品を本当に別々の人間が書いているからだったんです。」
「どういうことですか?」
突然の告白に頭がついていけない。
彼はよっこらせ、と立ち上がりドアのほうに行くと、こう言った。
「『つねいつぐと』、どんな字で書きましたっけねぇ」
「常に居る、次の人。」
僕はそう言いながら、空中に文字を書く。
そうすると、常居次人は急に体が軽くなったようになり、眼鏡を外して
「あんたの事だよ。」
「は?」
「僕が常居次人を演じる役はもう終わりました。」
え?
「自分の持ち込んだ原稿を、自分で書き上げましたからねぇお見せできないのか残念だなんせあなたは、他社の人間だから。」
「あなた何を言っているんですか?」
「誰にも一生に一本くらいは面白いお話を作ることができるんですねぇ。さぁ、あんたは101人目の常居次人として、自分の持ち込んだ原稿を書き上げるまで、帰ることはできない。」
「そんな馬鹿なもんがあるもんか!」
「初めは私もそう思いましたよ!!」
彼は怒りに満ちた顔でそう言う。
「でもね、これは事実なんだ..今の出版界に必要なものは何だ?あんたも、業界の人間ならわかるだろ。」
突然の質問に一瞬思考停止する。
「..常居次人のような、天才だ...」
「そう、そんな我々の身勝手な想いが、この常居次人という残酷なシステムを作り上げてしまったんだよ。」
彼は冷酷に言う。
「さぁ、私は一編集社に戻ります。頑張って『文豪・常居次人』の名を汚さぬよう、良い作品を書きあげて下さい。」
「ちょっと待ってくれ!それじゃ、僕は、今から、.....」
その瞬間、首筋に激痛が走り、倒れこんでしまう。
.......
彼は眼鏡を椅子に置き、
「頑張ってくださいねぇ....先生。」
そう言って部屋を出た。