リーダー・ウォーク

「少しは俺のこと分かった?」
「はい」
「そうか。なら予定は少し狂ったが良しとするか」
「ということでもう帰ってもいいですか?」

相手からシメの言葉みたいなのが出て素敵なお土産も頂いて。
区切りも良い所なのでそろそろこの見学会もお開きにしたい。
人の視線を感じるのも辛いし、何よりも足が限界だ。

「そんな言い方されたら帰したくなくなるだろ」
「だってきちんと言わないと察してくれないと思って」
「察するってなんだよ」
「ほらやっぱり分かってないじゃないですか」

地位は兄たちほど高くはなくてもやはり松宮家の三男さんは目立つ存在。
彼自身の容姿も手伝っているのだろうけど、女子社員さんの鋭い視線が
突き刺さって辛くて仕方ない。
もし自分がここに就職する予定のOLだったら明日からイジメにあいそう。
というかお仕事大丈夫なんですか?そろそろお兄さんが怒ってきそうですよ。

「疲れてる、か」

朝から歩きっぱなしなんです。

「疲れてる」

恭次さんはその辺気づいてくれたんだけどな。

「そうか。ちょっと張り切りすぎたな。井上に送らせる。今日は何をやっても駄目だ」
「そんな事ないです。楽しかったし。崇央さんが普通に部長しててびっくりした」
「不真面目にしてると思ったか?仕事は嫌いじゃない。残業や無駄な会議は嫌いだが」
「何時かトリミングにも進出してくれたら雇ってください」
「言ったな?」
「い……言ってない」
「撤回早すぎ。まあ、今はそこまで手は回らないから。何時かだな」

途中まで送ってもらって、あとは連絡を受けて迎えに来てくれた
井上に連れられて外へ。彼の運転で無事部屋まで帰ることが出来た。
電車にもバスにももう乗れる体力がなかったからありがたい。

頂いたカバンはとりあえず袋のまま冷蔵庫の上に置いておく。

「あれが似合う服装とメイクと髪型になれってことかな」

でもランに行くのにあのカバンは無理がないだろうか。
チワ丸抜きのデートなんて想像もつかないし。
それともあの人はそれでも良いと思ってるんだろうか?

結局あんまり相手を分かってないような。


『今日はおつかれさん。疲れたろ。もう寝てたか』
「はい。足にシップはって寝てます」
『そうか。俺が行ってマッサージしてやってもいいけど?』
「崇央さんも疲れてるだろうし。チワ丸ちゃんも寂しがってますよ」

明日のために早々とお風呂に入って布団に潜り込んだ。
もしかしたら彼から電話かメールがあるかもと待っていたらやっぱり。

『仕事は定時で終わったけど上の奴がグチグチ文句言うから』
「喧嘩しちゃったんですね」
『今日の事も無事に乗り切ったのに。なんであんな突っかかってくるんだか』
「崇央さんに期待してるからじゃないですか」
『そんなの勝手だ。あの家の連中は皆自分勝手。まあ、俺もそうなんだろうけど』
「……自覚はあるんだなぁ」
『アイツラに比べたらましだろ?なあ?』
「……前言撤回」
『コレも全部あんたとチワ丸との旅行のためだ。我慢するさ』
「もし何かあっても私とチワ丸ちゃんと行けますしね!」
『やっぱ今すぐあんたの部屋行くわ。話し合いが全然足りねえみたいだから』
「嘘ですよそんな本気にしないで。3人で行きましょ。ぜったい」
『ああ。絶対な。…絶対ヤるんだ』
「今すごく不健全なことを…いえ、なんでもないです」

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